お茶は、なぜ「やぶきた」が多いの?
日本茶の品種として、最もよく知られているのが「やぶきた」です。
かつては「全国の茶園の約75%、静岡県では約90%がやぶきた」と紹介されることが多くありました。しかし、近年は「さえみどり」「ゆたかみどり」「おくみどり」「せいめい」などへの品種転換が進み、やぶきたの割合は徐々に低下しています。
日本茶業中央会の「茶関係資料」を基にした2024年の品種別栽培面積では、やぶきたは全国の64.3%、静岡県では87.8%(およそ9割)を占めています。
全国ではすでに3分の2を下回りましたが、静岡県では現在も約88%を占める圧倒的な主力品種です。なぜ、やぶきたはこれほど広く栽培されてきたのでしょうか。

現在、やぶきたは全国の何%を占めている?
2024年時点の品種別栽培面積を見ると、やぶきたの割合には産地によって大きな違いがあります。
| 地域 | 茶の栽培面積 | やぶきたの割合 |
|---|---|---|
| 全国 | 29,879ha | 64.3% |
| 静岡県 | 12,618ha | 87.8% |
| 京都府 | 1,488ha | 52.6% |
| 鹿児島県 | 8,151ha | 29.4% |
静岡県では今も約88%がやぶきたである一方、鹿児島県では30%を下回っています。
鹿児島県では、温暖な気候や大規模な茶園を生かし、早生品種から晩生品種までを組み合わせて摘採時期を分散させる栽培が進んできました。そのため、「ゆたかみどり」「さえみどり」「おくみどり」など、やぶきた以外の品種が多く栽培されています。
関連記事:2024年の日本茶生産量 都道府県別ランキングはどうなる?日本一は静岡県?! 鹿児島県?
やぶきたとは?静岡県で生まれた日本茶の代表品種
やぶきたは、静岡県の杉山彦三郎によって選抜された茶品種です。
杉山彦三郎は、竹やぶを開墾した畑に茶の種をまき、育った茶樹の中から、品質や栽培特性に優れた株を選びました。その優良株が竹やぶの北側にあったことから、「やぶきた」と名付けられたとされています。
やぶきたが選抜されたのは1908年です。その後、1945年に静岡県の奨励品種となり、1953年には「茶農林6号」として農林省の登録品種になりました。
耐寒性、根付きのよさ、地域や土壌に対する適応性に優れ、煎茶に仕上げたときの味と香りのバランスもよかったことから、全国の茶産地へ急速に普及していきました。
やぶきた以前の茶園は、種から育てた「在来種」が中心だった
やぶきたが普及する以前、日本各地の茶園では、種から育てた「在来種」が多く栽培されていました。
茶の種をまいて育てた木は、親の茶樹とまったく同じ性質にはなりません。同じ畑の中でも、芽が出る時期、葉の大きさ、樹勢、味、香りなどに違いが生まれます。
それが地域ごとの個性につながる一方で、収穫時期や品質を揃えにくいという問題もありました。
これに対して、優良な親株の枝を使って増やす「挿し木」では、親株とほぼ同じ性質を持つ苗を増やせます。やぶきたを挿し木で増殖することにより、芽の伸び方や摘採時期、製茶後の品質を揃えやすい茶園を作れるようになりました。
やぶきたが全国に広がった5つの理由
1.幅広い地域で育てやすかった
やぶきたは耐寒性が比較的強く、苗の根付きもよいため、静岡県だけでなく、関東から九州まで幅広い地域で栽培できました。
土壌や気候への適応性が高く、収量と品質のバランスも取りやすかったことは、生産者にとって大きな利点でした。
2.煎茶として味と香りのバランスがよかった
やぶきたは、爽やかな香り、適度なうま味と渋味を持ち、煎茶としてバランスよく仕上がる品種です。
突出した個性を持つというより、日本人が日常的に飲む煎茶として受け入れられやすい味わいでした。このバランスのよさが、家庭用のお茶から贈答用の上級茶まで、幅広い商品に使われる理由となりました。
3.挿し木で同じ性質の苗を増やせた
やぶきたは、優良な母樹から挿し木によって増やされました。
種から育てる在来種と比べ、芽の出る時期や葉の性質が揃いやすく、茶園の管理、摘採、荒茶加工を計画的に行えるようになります。
品質を安定させやすいことは、生産者だけでなく、荒茶工場や仕上げ茶を作る茶商にとっても重要でした。
4.国や産地の奨励品種として普及した
やぶきたは、静岡県の奨励品種となり、1953年には国の登録品種となりました。
戦後、古い茶園の改植や新しい茶園の造成が進む中で、実績があり、品質と収量を期待できるやぶきたが選ばれました。苗の生産や栽培技術、製茶技術も整備され、全国で導入しやすい環境が作られていきました。
5.製茶業者や茶商が仕上がりを予測しやすかった
やぶきたが増えた理由は、生産現場だけにあるわけではありません。
品種が変わると、蒸し方、揉み方、乾燥、火入れの適温、色や香りの出方も変わります。長年やぶきたを扱ってきた製茶業者や茶商には、どのように加工すれば、どのような味に仕上がるかという経験が蓄積されています。
また、複数の荒茶を組み合わせる「合組」を行う場合も、流通量が多いやぶきたは原料を確保しやすく、商品の味を毎年安定させやすいという利点があります。
このような生産、製造、流通の積み重ねが、「やぶきたなら安心」という信頼を作り上げました。
やぶきたが多すぎることで起こる「摘採時期の集中」
やぶきたは優れた品種ですが、地域全体が同じ品種に偏ると、春の新芽が一斉に摘採適期を迎えるという問題が生じます。
摘採時期は、お茶の品質を左右する重要な要素の一つです。新芽が若いうちは柔らかく、うま味成分を多く含みますが、成長が進むにつれて葉が硬くなり、繊維や渋味が増えていきます。
上級な煎茶の原料として「一芯二葉」や「一芯三葉」の若い芽が重視されるのも、このためです。
しかし、生産者や荒茶工場が一日に収穫・加工できる量には限界があります。茶園の多くがやぶきただけであれば、短い期間に摘採と製茶が集中してしまいます。
さらに、春は天候が変わりやすく、雨で摘採できない日もあります。雨にぬれた生葉は、付着した水分の影響で蒸しや製茶の調整が難しくなるため、摘採を見送ることがあります。
数日間摘採が遅れるだけでも、新芽が大きく育ち、収量は増える一方で、上級茶原料としての評価が下がる場合があります。
早生・中生・晩生品種を組み合わせて収穫を分散する
摘採時期の集中を避けるため、現在はやぶきただけでなく、収穫時期の異なる品種を組み合わせることが推奨されています。
| 品種 | 早晩性の目安 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| さえみどり | 早生 | 渋味が比較的少なく、うま味と鮮やかな水色が評価される |
| ゆたかみどり | 早生 | 温暖地に適し、被覆や深蒸しによる濃い水色と味を生かしやすい |
| やぶきた | 中生 | 香り、うま味、渋味のバランスがよく、全国で広く栽培される |
| おくみどり | 晩生 | 濃緑色で、比較的すっきりした香味を持つ |
| おくゆたか | 晩生 | 摘採時期が遅く、収穫時期の分散に利用できる |
| せいめい | やや早生 | 被覆栽培への適性が高く、碾茶や粉末茶原料として期待される |
| かなえまる | 中生 | 病害虫抵抗性を持ち、農薬使用量の低減や有機栽培への活用が期待される |
早生、中生、晩生の品種を組み合わせれば、茶園ごとの摘採時期をずらすことができます。農作業と荒茶加工の集中を緩和し、それぞれの品種を適期に収穫しやすくなるため、品質の安定にもつながります。
関連記事:日本茶の品種別・味わいと特徴ガイド(26品種)—主な産地・おすすめの飲み方つき
静岡と鹿児島で品種構成が大きく違う理由
静岡県では、やぶきたが現在も87.8%を占めています。長年にわたり、やぶきたを中心とした栽培、製茶、流通の仕組みが形成されてきたことが大きな理由です。
一方、鹿児島県のやぶきた比率は29.4%です。
鹿児島県は温暖で新茶の収穫開始が早く、平坦で比較的大規模な茶園も多いため、早生から晩生まで複数の品種を組み合わせた生産に適しています。
早く摘める品種から順番に収穫することで、摘採機や荒茶工場を長い期間稼働させやすくなります。品質面だけでなく、生産効率や経営面からも、多品種化が進んできたと考えられます。
品質がよくても、やぶきた以外は評価されにくかった
茶の取引現場では、品質だけで価格が決まるとは限りません。
流通量が少ない品種は、品質が優れていても、製茶後の仕上がりを予測しにくい、同じ原料を継続して確保しにくい、既存商品の合組に使いにくいなどの理由から、茶商が仕入れに慎重になることがあります。
生産者にとっても、長い年月をかけて新しい品種を育てたにもかかわらず、「やぶきたではない」という理由で十分に評価されなければ、次の改植でもやぶきたを選びたくなります。
茶商がやぶきたを求め、生産者も売りやすいやぶきたを植える。この循環が、いわゆる「やぶきた神話」を長く支えてきました。
ただし、品種による取引価格の差は、産地、茶期、品質、需要、その年の相場によって大きく変わります。「やぶきた以外は安い」「さえみどりなら必ず高い」と一律に決まるものではありません。
品種による茶の価格差については、こちらの記事でも解説しています。
やぶきたの割合は、今後も少しずつ低下していく
農林水産省の資料では、全国の茶園に占めるやぶきたの割合は、2008年の76%から、2019年には72%、2023年には67%へ低下しています。
日本茶業中央会の資料を基にした2024年の集計では、さらに64.3%となっています。調査や集計の違いはありますが、長期的に見て、やぶきたへの集中が緩和されていることは明らかです。
その背景には、次のような変化があります。
- 早生・晩生品種を導入し、摘採時期を分散したい
- さえみどりなど、うま味や水色に優れた品種の需要が高まった
- 碾茶や抹茶、粉末茶に適した品種が求められている
- 病害虫抵抗性を持ち、農薬を減らしやすい品種が開発された
- 産地や商品の個性を品種で表現する動きが広がった
特に近年は、煎茶だけでなく、抹茶、和紅茶、釜炒り茶など、用途に合った品種を選ぶ重要性が高まっています。
やぶきたは減っても、日本茶の基準であり続ける
やぶきたの栽培割合は低下していますが、やぶきたの価値がなくなったわけではありません。
味と香りのバランスがよく、幅広い地域で栽培でき、製茶や仕上げの技術も蓄積されているやぶきたは、今後も日本茶の基準となる重要な品種であり続けるでしょう。
一方で、すべての茶園がやぶきただけである必要はありません。
さえみどりの鮮やかな色とうま味、ゆたかみどりの濃厚さ、おくみどりのすっきりした香味、べにふうきの特徴的な成分など、品種ごとに異なる魅力があります。
コーヒーやワインのように、品種の違いを楽しむ人が増えれば、日本茶の選び方もさらに豊かになります。
やぶきたを日本茶の土台として大切にしながら、地域、用途、気候に合った品種を増やしていくこと。それが、品質の安定と日本茶の多様性を両立させる方向ではないでしょうか。
参考資料
- 農林中金総合研究所「抹茶ブームと煎茶高騰 転換期にある茶の未来を考える」(日本茶業中央会「茶関係資料」を基にした2024年の品種別栽培面積)
- 農林水産省「茶業及びお茶の文化に係る現状と課題」
- 農林水産省近畿農政局「日本茶を愉しもう!」
- 静岡県立中央図書館「新茶の季節」
※品種別栽培面積は2024年時点の資料です。統計の調査年や集計方法によって、数値が異なる場合があります。
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