熊本・球磨地方の茶産地|相良村・錦町の歴史と特徴

球磨地方、相良村や錦町の茶の歴史や特徴 お知らせ
球磨地方、相良村や錦町の茶の歴史や特徴

熊本県南部、人吉球磨地方。相良村や錦町を中心に広がるこの地域は、熊本県内最大の茶産地です。

全国的には静岡や鹿児島、京都、福岡などの茶産地がよく知られていますが、熊本の球磨地方にも、800年以上前にさかのぼる茶の記録が残っています。

日本有数の清流として知られる川辺川、丘陵地に広がる大規模な茶畑、そして近年進みつつある有機栽培や抹茶生産への取り組み。

私たち山麓園も、この地域の生産者と交流しながら、お茶の仕入れや商品開発を行っています。

今回は、歴史資料と実際の産地で見聞きしたことを交え、球磨地方のお茶の魅力をご紹介します。

熊本県最大の茶産地、球磨地方

球磨地方は、九州山地に囲まれた人吉盆地と、その周辺の山々からなる地域です。

その中でも、相良村や錦町は大規模な茶園が集まる地域として知られています。

熊本県の農業普及資料によると、2024年時点の球磨地域の茶栽培面積は約182ヘクタール。県内の荒茶生産量の約半分を占める、熊本県最大の茶産地です。

相良村では、見渡す限り茶畑が続く丘陵地の風景が印象的です。

比較的広い茶園を管理する生産者も多く、乗用型の摘採機などを使った効率的な茶づくりが行われています。

一方、錦町周辺にも茶園や茶業関連施設があり、周辺の市町村と合わせて一つの産地を形成しています。

また、この地域では、やぶきた、さえみどりをはじめ、さまざまな茶品種が栽培されています。

生産者によって栽培方法や製造する茶の種類が異なることも、球磨地方の特徴です。

日本有数の清流・川辺川と茶畑

豪雨前の川辺川

相良村を訪れると、まず印象に残るのが自然の豊かさです。

村の中央には川辺川が流れ、その周辺には山々や丘陵地が広がっています。

川辺川は、国土交通省の水質調査で2025年まで20年連続して「水質が最も良好な河川」に選ばれています。

全国に複数ある最も水質の良好な河川の一つであり、長年にわたって高い水質を維持してきました。

川沿いには集落や農地があり、少し高い丘陵地へ進むと、広大な茶畑が現れます。

茶園の周囲には森林だけでなく牧場なども見られ、農業と自然が一体となったような風景が広がっています。

季節ごとに変わる茶畑の色、周囲の緑、広い空。

実際にこの地域を訪れると、自然の生命力を感じる場所が多くあります。

お茶の品質を決めるのは、自然環境だけではありません。品種や栽培技術、摘採時期、製茶技術も重要です。

それでも、この豊かな環境が球磨地方の茶づくりを支える大切な背景の一つであることは間違いないでしょう。

1191年に「茶五十斤」|800年以上前の茶の記録

球磨地方のお茶の歴史を考えるうえで、非常に興味深い古文書があります。

現在の多良木町に伝わる「平川家文書」です。史料の解説などでは「平河文書」とも表記されます。

1191年(建久2年)5月3日の「良峯師高所領譲状案」には、当時の初神村について「茶五十斤」と記されています。

初神村は、現在の相良村四浦地区にあたる地域です。川辺川の対岸には、当時の田代村がありました。

記録に出てくるのは、茶だけではありません。鹿皮や漆など、当時の山村で得られる産物も記されています。

この記録は、少なくとも1191年には、球磨地域で茶が産物として扱われていたことを示しています。

同じ1191年は、臨済宗の開祖として知られる栄西禅師が宋から茶種を持ち帰り、九州で播いたと伝えられる年でもあります。

日本の茶栽培の歴史を語るうえで重要な時代に、熊本の球磨地方にも茶の記録が残っているのです。

もちろん、これだけで現在まで同じ茶の栽培が途切れずに続いたと証明できるわけではありません。また、栄西禅師と球磨地方の茶に直接の関係があったことを示すものでもありません。

それでも、日本の茶の歴史を考えるうえで、非常に古く興味深い記録であることは確かです。

現在の大規模茶園と、入植してきた人々の歴史

相良村の茶畑を見ていると、もう一つ興味深いことがあります。

以前、相良村の村長とお話しする機会があり、村の農業や人々の暮らしについて伺いました。

そのお話の中で印象に残ったのが、茶農家には、後からこの地域に入植してきた人々や、その子孫が多いということでした。

古くからの集落は川沿いや比較的標高の低い場所にあり、丘陵地では入植した人々が農地を開いてきたという地域の歴史があるそうです。

現在広がっている大規模な茶園も、そうした人々の開拓や農業経営の積み重ねによって形づくられてきたのでしょう。

一方、川とともに暮らしてきた地域には、水害という厳しい側面もあります。

2020年7月の豪雨では、相良村を流れる川辺川や球磨川が氾濫し、住宅や農地、道路などに大きな被害が発生しました。

美しい自然は、この地域の豊かさを支えると同時に、時には厳しさを見せることもあります。

現在の茶畑の風景には、こうした土地の歴史と、人々が農業を続けてきた努力が重なっているように感じます。

飲料用原料の供給を支える球磨地方

球磨地方では、急須で飲むリーフ茶だけでなく、ペットボトル飲料などに使用される原料茶も多く生産されています。

広い茶園を生かして大量の生葉を収穫し、飲料用の原料として供給する仕組みが整っています。

JAくまの茶加工場でも、地域の茶葉をペットボトル飲料向けの原料に加工しています。

また、サントリーグループとJAくまは、緑茶原料の製造工程における環境負荷低減などにも共同で取り組んでいます。

このような取り組みからも、球磨地方が大手飲料メーカーを支える重要な茶産地の一つであることが分かります。

ただし、球磨地方のお茶がすべて飲料用というわけではありません。

品質を重視した一番茶の生産、蒸し製玉緑茶、煎茶、独自ブランドで販売するお茶など、生産者によって多様な取り組みが見られます。

有機栽培への転換が進む茶産地

相良村 有機栽培の茶畑 寒い時期もコツコツ畑を整備
相良村 有機栽培の茶畑 寒い時期もコツコツ畑を整備

近年、山麓園が球磨地方の生産者と交流する中で感じる変化の一つが、有機栽培への関心の高まりです。

すでに有機栽培を長く続けている農家もあれば、従来の栽培方法から有機栽培への転換を進めている農家もいます。

有機栽培では、使用できる農薬や肥料などに制限があり、病害虫への対応や雑草管理、土づくりなどにも工夫が必要です。

とりわけ茶は永年性作物であるため、一度栽培方法を変えればすぐに結果が出るものではありません。

長期間にわたる管理や技術の積み重ねが必要になります。

山麓園でも、球磨地方の生産者と協力しながら、有機茶や抹茶原料の調達を進めています。

産地の新しい取り組みが、これからの熊本茶の価値を高める可能性があると考えています。

関連記事:有機栽培は無農薬ではない?! 意外と知らない無農薬と有機栽培の勘違い

鹿児島とのつながりと、2025年以降の茶不足

球磨地方は鹿児島県に比較的近く、茶業関係者の間でも県境を越えた交流があります。

生産者同士のつながりや、茶葉の売買、製造・栽培技術の情報交換など、県内だけで完結しない関係があるのも特徴です。

2025年以降、国内の茶の需給が大きく変化し、原料茶の確保が難しくなりました。

山麓園が産地で見聞きする範囲でも、鹿児島方面から茶葉を調達しに来る業者が増えたという話を耳にします。

これまで比較的安定していた原料の流れにも変化が起きているようです。

茶の価格上昇は生産者の収益改善につながる可能性がある一方、取引の継続性や将来の生産計画にも影響を与えます。

生産者にとっても、どのようなお茶を、誰に、どの価格で販売するのかが、これまで以上に重要になってきています。

抹茶産地としての新たな可能性

球磨地方は古くからの茶産地ですが、抹茶原料となる碾茶の生産は、まだ発展途上にあると感じています。

一部の生産者が碾茶づくりに取り組み始めていますが、煎茶や飲料向け原料の生産と比較すると、規模はまだ限定的です。

抹茶用の茶葉を生産するには、品種の選定や被覆栽培、摘採時期、碾茶加工など、従来の茶づくりとは異なる技術や設備が必要になります。

しかし、球磨地方には大規模な茶園を経営する生産者が多く、さまざまな茶品種も栽培されています。

そのため、今後の市場動向によっては、抹茶原料の産地として発展する余地もあると考えています。

山麓園でも相良村産の「つゆひかり」や「せいめい」を使用した熊本伝承抹茶「初神の白」など、地元の茶葉を生かした商品づくりを行っています。

800年以上前の茶の記録が残る土地から、現代の抹茶が生まれる。

そこには、熊本の茶産地ならではの面白さがあります。

→熊本産相良村産の抹茶にご興味がございましたら、熊本伝承抹茶 初神の白 熊本県相良村について、または熊本伝承抹茶「平河の昔」|1191年の茶の記録と有機せいめい碾茶に詳しい情報がございます。

これからの球磨茶産地に期待すること

球磨地方の魅力は、単に生産量が多いことだけではありません。

古い歴史、清流と豊かな自然、大規模農業を支えてきた人々、飲料向け原料の生産、有機栽培への転換、そして新しい抹茶づくり。

これほど多様な特徴を持つ茶産地は、決して多くないのではないでしょうか。

山麓園では、産地の生産者と直接向き合い、栽培や製造の現場を確認することを大切にしています。

熊本のお茶を全国、そして海外へ。

歴史ある球磨地方の茶産地が、これからどのように変わっていくのか。

茶商として、今後もその変化を見つめながら、生産者とともに熊本茶の魅力を発信していきたいと思います。


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その他の熊本のお茶産地について

参考資料

※現地の様子や生産者の動向については、山麓園による訪問・聞き取り情報を含みます。

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