
熊本県が育成した新しい茶品種「熊本TC01」を試飲する機会がありました。
結論から言うと、旨味がかなり強い。それでいて香りや余韻は穏やかで、上品にまとまったお茶という印象でした。
特に印象に残ったのが、飲み終えた後に残る甘みです。
公表されている研究データを見ると、熊本TC01は「やぶきた」と比較してテアニンやグルタミン酸が多いことが確認されています。実際に飲んでみると、その数字にも納得できる味わいでした。

熊本TC01とは?
「熊本TC01」は、熊本県農業研究センター茶業研究所が育成した、熊本県初のオリジナル茶品種です。
もともとは2003~2005年に熊本県内の現地茶園から採取された在来系統の中から、天草市の茶園由来の系統が選抜され、長年の試験を経て育成されました。
2024年1月30日に品種登録され、登録番号は第29996号。
さらに特徴的なのが、登録上、「生産する行為の制限」の指定地域が熊本県となっていることです。熊本県も県内での栽培に限定して普及を進める方針を示しています。まさに熊本ならではの茶品種といえます。

実際に熊本TC01を飲んでみました
今回試飲した熊本TC01には、製造によるものと思われる火香が少し入っていました。
しかし、その火香が強く前に出ることはなく、まず感じたのは口当たりの穏やかさです。
香りも華やかさを強く主張するタイプではありません。
むしろ、
「香りは上品で穏やか。しかし、旨味はしっかり強い」
という印象です。
一口目から旨味を感じますが、飲み終わった後の余韻そのものは比較的穏やかです。
ところが、その後に甘みが長く残る。
この部分が非常に印象的でした。
旨味が強い品種というと、味の重さや個性が前面に出る場合もありますが、熊本TC01は旨味の強さに対して香りや余韻が暴れず、全体としてきれいにまとまっています。

二煎目も味が崩れない
もう一つ印象的だったのが二煎目です。
一煎目だけ旨味が強く、二煎目になると急に薄くなるという感じではありませんでした。
二煎目も十分に美味しく、熊本TC01らしい穏やかな口当たりと旨味を楽しむことができました。
茶葉そのものに味の力があるように感じます。
水色は思ったほど「青い」わけではない
熊本TC01は葉色が濃い品種として紹介されています。
実際、熊本県の試験でも「やぶきた」より葉緑素値が高く、濃緑の新芽になることが確認されています。
ただし、今回飲んだお茶の水色は、
「驚くほど青い、濃緑色のお茶」
という感じではありませんでした。

これは今回のお茶が深蒸しではないことも大きいと思います。
葉そのものの緑が濃くても、普通蒸しに近い製法では茶葉が比較的大きく残るため、深蒸し茶のように細かな茶葉が抽出液中に入り込むわけではありません。
そのため、今回の水色だけを見て熊本TC01の色の評価をするのは早いでしょう。
深蒸し製法にすると、現在よりも濃く鮮やかな緑色を出せる可能性は十分にあると感じました。
やぶきたよりテアニン、グルタミン酸が多い
そして、今回の試飲結果で興味深かったのが成分データとの一致です。
熊本県農業研究センターの一番茶の試験では、荒茶中の遊離アミノ酸について次の数値が報告されています。
- テアニン
熊本TC01:2,000mg/100g
やぶきた:1,200mg/100g - グルタミン酸
熊本TC01:310mg/100g
やぶきた:235mg/100g
つまり、この試験では熊本TC01のテアニンは「やぶきた」より約67%、グルタミン酸は約32%多い結果です。
熊本県自身も、熊本TC01について「テアニンやグルタミン酸が『やぶきた』よりも3割以上多く含まれる」と紹介しています。
今回飲んで感じた、
「旨味が強い」
「甘みが残る」
という印象を見ると、この成分値にも納得できます。
もちろん、お茶の味は品種だけでなく、栽培方法、摘採時期、蒸し、揉み、火入れなどによって大きく変わります。
それでも、品種そのものが持つポテンシャルとして非常に面白い数字ではないでしょうか。
関連記事:なぜ日本茶は「やぶきた」が多い?全国64%・静岡およそ9割を占める理由
抹茶にしても面白い品種ではないか
今回飲みながら、個人的に非常に気になったことがあります。
「熊本TC01を抹茶にしたら、どうなるのだろう?」
ということです。
熊本TC01はもともと蒸し製玉緑茶向けとして育成された品種であり、現時点で公表されている研究から「抹茶向け品種である」と断定することはできません。
しかし、
- 葉色が濃い
- テアニンが多い
- グルタミン酸が多い
- 旨味が強い
- 香りが強く主張しすぎない
- 甘みの余韻が残る
という今回確認できた特徴を考えると、被覆栽培を行い、碾茶として製造した場合にも面白い可能性があるのではないかと感じます。
抹茶では、色だけ良ければよいわけではありません。
旨味、甘み、香り、渋味・苦味とのバランスが重要です。
今回リーフ茶として飲んだ限りでは、熊本TC01にはその素材としての高いポテンシャルを感じました。
これは今後、ぜひ実際の碾茶・抹茶製造で確認してみたいところです。
二番茶も高い評価
熊本TC01が興味深いのは、一番茶だけではありません。
熊本県農業研究センターの試験では、二番茶についても「やぶきた」と比較して収量が2割以上多く、荒茶品質も高い結果が報告されています。
特に二番茶の官能審査では、香気と水色が高く評価され、テアニンなど主要な遊離アミノ酸も「やぶきた」より多い結果となっています。
高品質なお茶を作れるだけでなく、収量性もある。
生産者にとっても非常に興味深い品種です。
「熊本でしか作れないお茶」になる可能性
日本茶には「やぶきた」「さえみどり」「おくみどり」「つゆひかり」など、多くの品種があります。
しかし、これらの多くは県を越えて栽培されています。
一方、熊本TC01は品種登録上、生産地域が熊本県に限定されています。
つまり将来的には、
「熊本TC01だから熊本のお茶」
と言える品種になっていく可能性があります。
産地としての違いを伝えるうえで、これは非常に大きな意味を持つと思います。
【画像:熊本TC01紹介資料】
山麓園としても注目していきたい品種です
今回実際に飲んでみて、熊本TC01はかなり有望な品種だと感じました。
強い旨味。
穏やかで上品な香り。
そして飲み終えた後に残る甘み。
二煎目まで美味しく飲める味の厚み。
研究データを見ると、テアニンやグルタミン酸の多さ、濃い葉色、高い収量性という裏付けもあります。
そして何より、熊本県が育成し、熊本県内で栽培されていくオリジナル品種です。
まだ市場ではほとんど見かけない品種ですが、これから生産量が増えていけば、「熊本のお茶」を代表する品種の一つになる可能性があるのではないかと思います。
山麓園としても、生産者の方々と相談しながら、入手できるようになれば積極的に取り扱い、熊本TC01という品種を皆様に知っていただくお手伝いができればと考えています。
そして可能であれば、いつか熊本TC01の碾茶・抹茶も作ってみたい。
今回飲んだ一杯から、そんな可能性を感じた新品種でした。
関連記事:日本茶の品種ガイド|味・香り・向く製法から選ぶ代表34品種
この記事のライター:株式会社山麓園 代表取締役 甲斐宣史
この記事は、日本茶・健康茶の製造販売を行う株式会社山麓園が、茶葉の仕入れ・製造・販売経験をもとに解説しています。お茶の魅力、健康効果などについて情報を発信。楽天やヤフーショッピングの店長としても活躍中。食前にサラダを山盛り、高温調理の食品は避け、米は玄米と決めていて健康オタクでもあります。
