「つゆひかり」は、明るいエメラルドグリーンの水色と、爽やかな香り、しっかりした旨味を持つ緑茶品種です。
一般的な品種紹介では、「多収で育てやすい」「色がきれい」「香りと旨味に優れる」と説明されることが多いでしょう。
しかし、実際に熊本県や八女の生産者から品種別に茶葉を仕入れていると、つゆひかりには、こうした教科書的な説明だけでは伝わらない面白さがあります。
八女では高値が付き、高級品にもよく見られる一方、熊本では品質が高くても、特別に抜けて高く評価されているようには見えません。また、煎茶用品種として知られていますが、弊社では旨味や成分値の高い抹茶を作るための原料として、つゆひかりに大きな可能性を感じています。
この記事では、品種の基本的な特徴に加え、山麓園が生産者との取引や成分検査を通して感じている、つゆひかりの実力をご紹介します。

つゆひかりとは?静7132とあさつゆから生まれた品種
つゆひかりは、静岡県で「静7132」を母親、「あさつゆ」を父親として育成された茶品種です。2003年に品種登録されました。
静7132は、桜葉のような特徴的な香りを持つ系統として知られています。一方、あさつゆは、濃厚な旨味と美しい水色から「天然玉露」とも呼ばれる品種です。
つゆひかりは、この両者を親に持ち、鮮やかな水色、爽やかな香り、コクと旨味を備えています。
| 品種名 | つゆひかり |
|---|---|
| 交配 | 静7132 × あさつゆ |
| 育成地 | 静岡県 |
| 品種登録 | 2003年 |
| 摘採時期 | やぶきたより2日程度早い、やや早生 |
| 主な特徴 | 多収、樹勢が強い、被覆適性が高い、炭疽病に強い |
| 味と香り | 爽やかな香り、コク、旨味 |
| 水色 | 明るいエメラルドグリーン |
生産者からは「収量が多く、育てやすい」と聞く
弊社が取引している生産者からも、つゆひかりは収量が多く、比較的育てやすい品種だと聞いています。
この生産者の実感は、公的な試験結果とも一致しています。
静岡県の試験では、つゆひかりの10アール当たり収量は、やぶきたと比較して、本場では一番茶が129%、年間収量が131%でした。山間地でも一番茶106%、年間126%と、多収性が確認されています。
また、樹勢が強く、炭疽病や赤枯れにも比較的強いとされています。収量だけでなく、品質もやぶきたと同等以上と評価されており、単なる「量を取りやすい品種」ではありません。
ただし、どの地域でも同じように育つわけではありません。茶園の標高、土壌、降雨量、霜の発生、施肥、摘採時期などによって、収量と品質は変わります。
熊本・八女では見かけるが、鹿児島県ではかなり少ない
つゆひかりは静岡県で育成された品種ですが、現在は静岡県だけで栽培されているわけではありません。
弊社が茶葉の仕入れや相談を行っている範囲では、熊本県や福岡県八女地域で、つゆひかりを栽培する生産者を比較的よく見かけます。
県全体の正確な栽培戸数を示すものではありませんが、少なくとも熊本県では、極めて珍しい品種という印象はありません。複数の地域、複数の生産者が栽培しています。
一方、鹿児島県では、つゆひかりを見かけることはかなり少ないように感じます。
鹿児島県が公表している2025年時点の品種別栽培面積でも、つゆひかりは独立した品種として掲載されていません。一部が「その他」に含まれている可能性はありますが、鹿児島県内で大きな割合を占める品種ではないと考えられます。
鹿児島県では、ゆたかみどり、やぶきた、さえみどり、あさつゆ、おくみどりなどが広く栽培されています。既に地域に適した品種構成が確立していることも、つゆひかりが少ない理由の一つかもしれません。
八女では高級品、熊本では必ずしも高値にならない
同じつゆひかりでも、産地によって市場での評価は異なります。
弊社の仕入れ経験では、八女産のつゆひかりは比較的高値で取引され、高級煎茶や単一品種の商品にもよく使われています。
八女茶は玉露やかぶせ茶、高級煎茶の産地として知られ、旨味の強い品種や被覆した茶葉に高い評価が付きやすい地域です。鮮やかな水色と旨味を持つつゆひかりは、八女茶の高級品路線とも相性がよいのでしょう。
一方、熊本県では、つゆひかりだけが特別に抜けて高く評価されているようには見受けられません。
これは、熊本産つゆひかりの品質が低いという意味ではありません。熊本では、さえみどり、きらり、あさのか、おくみどり、さやまかおり、さえあかりなど、さまざまな品種が作られています。つゆひかりも、その中の一品種として評価されている印象です。
茶葉の価格は、成分や味だけで決まりません。産地ブランド、品種の知名度、買い手の需要、入札時の競争、仕上げ後の商品イメージなども影響します。
そのため、熊本では、品質のよいつゆひかりを比較的手頃な価格で仕入れられる場合があります。品種名の知名度ではなく、実際の味や成分で選ぶなら、つゆひかりは狙い目になることがあります。
熊本県美里町・右田さんのつゆひかり

掲載している画像は、熊本県美里町の生産者、右田さんが作ったつゆひかりです。
美里町は熊本県内でも有力な茶産地の一つです。山間地特有の昼夜の寒暖差と豊かな自然環境があり、煎茶、玉緑茶、被覆茶など、品質の高い茶が生産されています。
右田さんのつゆひかりは、鮮やかな水色と爽やかな香りがあり、旨味だけに偏らず、飲みごたえも感じられるお茶でした。
つゆひかりは「あさつゆ」を親に持つため、鮮やかな色や旨味に注目されがちです。しかし、実際に飲んでみると、あさつゆよりも味に芯があり、香りとコクを含めたバランスのよさが魅力だと感じます。
つゆひかりは煎茶だけでなく、抹茶原料としても有望
つゆひかりは、主に煎茶用品種として紹介されてきました。
しかし、山麓園では現在、抹茶原料としてのつゆひかりの可能性を強く感じています。
抹茶の原料となる茶葉は、摘採前に一定期間、日光を遮って栽培します。被覆によってカテキンの生成を抑えながら、テアニンをはじめとする旨味成分を茶葉に残し、抹茶に適した色と味を作ります。
つゆひかりは被覆適性が高く、静岡県の茶業研究センターも、てん茶原料として外観や「から色」に優れる品種の一つに挙げています。生育がよく、炭疽病にも強いため、有機栽培によるてん茶への適性も高いと評価されています。
弊社が熊本県内の生産者から仕入れた被覆一番茶でも、高い成分値が確認されました。
被覆したつゆひかりは、高いAFスコアを示す
すべてのロットでAFスコア77点以上を記録しました。
AFスコアは、遊離アミノ酸と繊維のバランスから算出される茶葉品質の評価指標です。一般に、若く柔らかい芽で、旨味に関係する遊離アミノ酸が多いほど高くなりやすい傾向があります。
もちろん、AFスコアだけで抹茶の品質が決まるわけではありません。
- 茶葉の色
- 品種特有の香り
- タンニンやカフェインの量
- 被覆期間と遮光率
- 摘採時期
- 蒸し方と乾燥方法
- 粉砕後の粒度
- 実際に飲んだときの味
これらを総合して判断する必要があります。
それでも、異なる2生産者、合計4ロットで継続して高いAFスコアが確認されたことは、つゆひかりが被覆栽培と相性がよく、旨味の強い抹茶原料を作れる可能性を示す結果だと考えています。
なぜ、つゆひかりが抹茶に向くのか
弊社がつゆひかりを抹茶原料として評価している理由は、単にAFスコアが高かったからではありません。
1.被覆によって旨味を高めやすい
つゆひかりは被覆適性が高く、実際に被覆した複数のロットで高いAFスコアが確認されました。
被覆によって渋みを抑えながら旨味を増やしやすいことは、抹茶原料として大きな長所です。
2.鮮やかな色が出やすい
つゆひかりは、煎茶でも明るいエメラルドグリーンの水色が特徴です。
抹茶では、味や香りだけでなく、粉末と飲用時の色も重要です。つゆひかりが持つ明るい緑色は、抹茶や抹茶ラテ、菓子用途でも魅力になります。
3.旨味だけでなく、香りとコクがある
旨味だけが強いお茶は、単体で飲むとおいしくても、牛乳や砂糖を加えたときに味が埋もれる場合があります。
つゆひかりは、旨味に加えて爽やかな香りとコクがあります。このため、茶道用の薄茶だけでなく、抹茶ラテや製菓など、味の存在感が求められる用途にも可能性があります。
4.収量性が高い
現在、抹茶原料は全国的に不足し、価格も急激に上昇しています。
高品質な抹茶を継続的に生産するには、成分値だけでなく、生産者が安定して収穫できることも重要です。
つゆひかりは、品質、被覆適性、収量性を兼ね備えています。高品質な抹茶原料を一定量確保するという点でも、現実的な可能性を持つ品種です。
つゆひかり・あさつゆ・さえみどりの違い
| 品種 | 味の傾向 | 香り・水色 | 山麓園が考える適性 |
|---|---|---|---|
| つゆひかり | 旨味、コク、爽やかさのバランス | 芳醇な香り、明るいエメラルドグリーン | 煎茶、かぶせ茶、てん茶、抹茶 |
| あさつゆ | 渋みが少なく、濃厚な甘味と旨味 | 青みの強い濃厚な水色 | 上級煎茶、かぶせ茶 |
| さえみどり | 上品な甘味と旨味、渋みが少ない | 鮮やかな緑色 | 上級煎茶、かぶせ茶、抹茶 |
あさつゆやさえみどりは、甘味と旨味が分かりやすく、高級茶として説明しやすい品種です。
一方、つゆひかりは、旨味、香り、コク、爽やかさのバランスに魅力があります。
品種名の知名度では、さえみどりほど高くありません。しかし、煎茶として飲んだときの完成度や、被覆後の成分値を見ると、品質面で決して劣る品種ではありません。
つゆひかりのおいしい淹れ方
つゆひかりの旨味と爽やかな香りを楽しむには、70℃前後のお湯で丁寧に淹れるのがおすすめです。
| 茶葉 | 5~6g |
|---|---|
| 湯量 | 約180ml |
| 湯温 | 65~75℃ |
| 抽出時間 | 約60~90秒 |
旨味を強く感じたい場合は、65~70℃程度まで湯温を下げ、少し長めに抽出します。
爽やかな香りと適度な渋みを楽しみたい場合は、75~80℃程度のお湯で、やや短めに抽出してください。
二煎目は少し高めのお湯を使い、10~20秒ほどで注ぎ切ると、香りの変化を楽しめます。
まとめ|つゆひかりは煎茶と抹茶の両方で注目したい品種
つゆひかりは、明るい水色、爽やかな香り、コクと旨味を備えた、品質と収量性に優れる品種です。
熊本県や八女地域では、複数の生産者が栽培しています。一方、鹿児島県では、主要品種としてまとまった栽培面積は確認できず、割合的にはかなり少ないと考えられます。
八女では高級品として高値が付くことがありますが、熊本では品質が高くても、つゆひかりだけが特別に高く評価されるとは限りません。そのため、実際の品質に対して比較的手頃な原料を見つけられる場合があります。
つゆひかりは煎茶として優れた品種ですが、それだけではありません。被覆適性、鮮やかな色、香り、旨味、収量性を考えると、旨味や成分値の高い熊本産抹茶を作るための原料としても期待できる品種です。
世間での知名度は、さえみどりややぶきたほど高くありません。しかし、実際の茶葉を飲み、成分を検査し、生産者の話を聞いている立場からすると、山麓園が今後も注目していきたい品種の一つです。
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参考資料
執筆・監修:株式会社山麓園 代表取締役 甲斐宣史
日本茶・健康茶の仕入れ、製造、火入れ、合組、粉砕、商品開発に携わっています。熊本県内の茶農家から品種別の茶葉を仕入れ、煎茶、玉緑茶、抹茶など、品種特性を生かした商品開発を行っています。
※熊本県・八女地域における栽培状況や価格評価については、山麓園の取引・仕入れ経験に基づく見解です。県全体の生産戸数や平均取引価格を示すものではありません。AFスコアは茶葉品質を判断する指標の一つであり、味、香り、色などを含む抹茶の総合的な品質を単独で決定するものではありません。

