
2026年10月、山麓園では熊本県内の茶農家と協力して栽培した被覆秋冬番茶の収穫が始まり、成分分析と火入れ試験を進めています。
前回の記事「秋冬番茶を抹茶原料に|熊本3産地で被覆栽培に挑戦」では、山鹿市、菊池市、相良村で取り組んでいる秋冬番茶の被覆栽培についてご紹介しました。
今回はその続編として、実際に収穫された秋冬番茶の成分分析結果を公開します。
特に興味深かったのは、相良村産の被覆秋冬番茶「さえあかり」の成分が、過去に分析した知覧産二番茶の碾茶原料と非常に近かったことです。
さらにAFスコアも20〜21点と、これまでに分析した二番茶碾茶の一部と同水準でした。
秋冬番茶は、一般的に一番茶や二番茶よりも安価に取引される茶葉です。
しかし、今回の結果からは、被覆栽培した秋冬番茶が、比較的安価な加工用抹茶原料として活用できる可能性が見えてきました。
1. 熊本県最大の茶産地・球磨地方で生産された秋冬番茶

今回成分分析を行った茶葉は、熊本県球磨郡相良村で生産された被覆秋冬番茶です。
相良村や錦町を中心とする球磨地方は、熊本県最大の茶産地です。
球磨地方では大規模な茶園が広がり、飲料用の原料茶から高品質な一番茶まで、さまざまな茶葉が生産されています。
地域の茶産業の歴史や特徴については、以前の記事「熊本・球磨地方の茶産地|相良村・錦町の歴史と特徴」で詳しく紹介しています。
今回仕入れたのは、この相良村で育てられた「さえあかり」という品種です。
さえあかりは、さえみどりを親に持つ品種で、色沢や収量性などに特徴があります。
品種の詳細については「さえあかりとは?多収・病気に強く、有機栽培と抹茶にも向く注目品種」でも解説しています。
2. 相良村産さえあかりの成分分析結果を公開
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2026年10月19日、相良村産の被覆秋冬番茶「さえあかり」について、茶成分分析計で2ロットの測定を行いました。
結果は次のとおりです。
2026年産・相良村さえあかり(被覆秋冬番茶)
| 分析項目 | No.17 | No.18 | 2ロット平均 |
|---|---|---|---|
| 水分 | 5.1% | 4.6% | 4.85% |
| 全窒素 | 4.3% | 4.5% | 4.40% |
| 遊離アミノ酸 | 2.2% | 2.3% | 2.25% |
| テアニン | 1.1% | 1.2% | 1.15% |
| 繊維 | 26.9% | 26.5% | 26.70% |
| タンニン | 11.5% | 12.1% | 11.80% |
| カテキン | 12.2% | 12.5% | 12.35% |
| AFスコア | 20点 | 21点 | 20.5点 |
| 分析計ランク | 4 | 4 | 4 |
※2026年10月19日測定。山麓園の茶成分分析計による測定値です。2ロット平均は単純平均です。成分値は品種、栽培条件、加工方法、測定条件によって異なります。AFスコアとランクは分析計の評価指標で、公的な茶の等級ではありません。
【写真:No.17の成分分析票】
【写真:No.18の成分分析票】
今回の結果で注目したいのは、遊離アミノ酸が平均2.25%、テアニンが平均1.15%含まれていたことです。
一番茶の高級抹茶原料ほど高い数値ではありませんが、秋冬番茶としては興味深い結果です。
一方、繊維は平均26.7%と高く、成熟した茶葉であることも数字に表れています。
そして、もう一つ注目したのがAFスコアです。
3. AFスコア20〜21点は、二番茶の碾茶にも見られる水準
山麓園では、仕入れた茶葉を成分分析計で測定し、品質の評価や製品開発に活用しています。
過去の分析では、二番茶の碾茶でAFスコア20〜22点程度のものもありました。
また、三番茶ではAFスコア13点という測定結果も得ています。
| 原料 | AFスコア |
|---|---|
| 二番茶の碾茶(過去の測定例) | 20〜22点程度 |
| 今回の被覆秋冬番茶・さえあかり | 20〜21点 |
| 三番茶(2026年産の測定例) | 13点 |
※各茶期の代表値や平均値ではなく、山麓園で測定した個別原料の比較です。
今回の被覆秋冬番茶は、AFスコアという指標では、過去に測定した二番茶碾茶の一部と同水準となりました。
もちろん、AFスコアだけで品質のすべてが分かるわけではありません。
茶葉の色、香り、旨味、苦渋味などを含めて評価する必要があります。
しかし、秋冬番茶だからといって、必ずしも三番茶より成分評価が低くなるわけではないことが、今回の結果から分かります。
茶の収穫時期だけで品質を決めつけるのではなく、実際の茶葉を測定して評価することが重要です。
4. 驚いたのは、知覧二番茶3検体との成分の近さ
今回の分析結果を確認していて、特に興味深いことがありました。
山麓園では以前、2023年産の知覧抹茶原料について、一番茶1検体と二番茶3検体の成分分析を行っています。
この結果は「知覧抹茶『藤』と『葵』はどちらを選ぶ?679件の評価と成分データで分かった目的別の答え」で公開しています。
今回の相良村産被覆秋冬番茶と、当時の知覧二番茶3検体の平均値を比較してみました。
相良村の被覆秋冬番茶と知覧二番茶の比較
| 分析項目 | 被覆秋冬番茶・さえあかり(2026年) | 知覧二番茶3検体平均(2023年) |
|---|---|---|
| 全窒素 | 4.40% | 4.97% |
| 遊離アミノ酸 | 2.25% | 2.07% |
| テアニン | 1.15% | 1.17% |
| タンニン | 11.80% | 11.70% |
※それぞれ異なる年・産地・原料の測定結果です。同一条件で栽培した比較試験ではありません。
驚くほど近い数値です。
遊離アミノ酸は今回の秋冬番茶が2.25%、知覧二番茶が2.07%で、今回の秋冬番茶の方がわずかに高い結果となりました。
テアニンは1.15%と1.17%で、ほぼ同じです。
タンニンも11.8%と11.7%で、非常に近い数値となっています。
全窒素は知覧二番茶の方が高いものの、旨味や渋味に関係する主要な分析値がここまで近いことは、興味深い発見でした。
もちろん、分析値が近いからといって、同じ味になるわけではありません。
品種も産地も収穫時期も異なります。
しかし、秋冬番茶でも、被覆栽培によって二番茶の碾茶に近い成分構成を持つ原料が得られる可能性があることは、今回の試験の大きな収穫です。
5. 三番茶との比較でも、秋冬番茶の可能性が見える
山麓園では2026年8月、一番茶の抹茶原料と三番茶を使用した粉末緑茶の成分比較も行いました。
その結果については「一番茶と三番茶では、味や価格だけでなく、茶葉に含まれる成分にも違いがあります」で公開しています。
このとき使用した三番茶粉末緑茶は、さえみどり、さやまかおり、やぶきたを配合したものです。
今回の被覆秋冬番茶と比較すると、次のようになります。
| 成分 | 被覆秋冬番茶(今回) | 三番茶粉末緑茶(2026年) |
|---|---|---|
| 全窒素 | 4.40% | 4.10% |
| 遊離アミノ酸 | 2.25% | 1.20% |
| テアニン | 1.15% | 0.40% |
| 繊維 | 26.70% | 24.60% |
| タンニン | 11.80% | 16.10% |
この比較では、今回の被覆秋冬番茶の方が遊離アミノ酸やテアニンの数値が高く、タンニンは低い結果となりました。
特にテアニンは約2.9倍、遊離アミノ酸は約1.9倍です。
ただし、今回の被覆秋冬番茶と三番茶は、品種構成や製造条件も異なります。そのため、この差をすべて被覆栽培の効果と断定することはできません。
それでも、加工用抹茶の原料として見た場合、期待できる成分構成と言えるでしょう。
6. 茶葉の色沢も良好|加工用原料として期待
今回の相良村産さえあかりは、実際の茶葉の色沢もなかなか良好でした。
抹茶ラテや菓子などの加工用途では、成分だけでなく、粉末にしたときの緑色が重要になります。
いくら旨味成分が含まれていても、粉末が黄色みや褐色を帯びてしまうと、用途によっては評価が下がります。
反対に、比較的安価な原料であっても、鮮やかな緑色と実用的な香味があれば、十分な商品価値があります。
今回の被覆秋冬番茶は、成分だけでなく、色沢の点でも期待しています。
ただし、現時点での評価は茶葉の状態によるものです。
粉砕後にどの程度の緑色が出るかは、今後確認する必要があります。
7. 山鹿産さえみどりは12〜18日間被覆|火入れ試験も実施
相良村産さえあかりとは別に、熊本県山鹿市でも秋冬番茶の被覆栽培を進めています。
山鹿産の秋冬番茶は、茶畑や品種によって12〜18日間の被覆栽培を行いました。
前回の記事では、12日間被覆した「つゆひかり」の茶畑をご紹介しました。
今回は、そのほかに「さえみどり」の火入れも行いました。
今回火入れしたさえみどりは、13〜14日間被覆した秋冬番茶です。
さえみどりは、鮮やかな緑色と旨味、上品な甘味が特徴の品種として知られています。
品種そのものの特徴は「『さえみどり』の魅力と特徴|お茶のサラブレッド品種&高機能品種茶」で詳しく解説しています。
排出温度93℃で火入れ
2026年10月25日、山鹿産さえみどりの火入れを行いました。
今回の排出温度は93℃です。
加工用抹茶原料として使用することを想定しているため、強い焙煎香を付けるよりも、茶葉の緑色を維持しながら香味を整えることを重視しました。
火入れ前の茶葉からは、さえみどりらしい香りが感じられたように思います。
しかし、火入れ後の香りは、一番茶や二番茶のさえみどりとは違うものでした。
一番茶のような甘い香りでもなく、ナッツ系の香ばしさとも異なります。
同じ品種でも、茶葉の生育時期や成熟度によって、火入れ後の香りが変わることを改めて感じました。
また、今回の原料には、赤みを帯びた茎、いわゆる「赤棒」も多少含まれています。
こうした成熟した茎葉が、最終的な粉末の色や香味にどのような影響を与えるかも確認したいところです。
ただし、今回感じた独特の香りが赤棒によるものかどうかは、まだ分かりません。
8. 火入れ後の香りだけでは、粉末の品質は判断できない
山麓園では、これまで多くの茶葉を自社設備で微粉砕してきました。
その経験から、茶葉の状態では気になっていた香りが、粉末に仕上げるとあまり目立たなくなることが少なくありません。
今回のさえみどりも、火入れ後の茶葉の香りだけで、最終的な品質を判断するのは早いと考えています。
茶葉を細かく粉砕すると、粒子の大きさや表面積が変わり、香りの感じられ方も変化します。
もちろん、必ず香りが弱くなるわけではありません。
そこで、実際に粉末に仕上げて評価することにしました。
9. サイクロンミルで微粉砕し、粉末原料としての品質を確認
山麓園では、自社のサイクロンミルを使って茶葉を微粉砕しています。
粉砕後の粒子径は、中央値(D50)約10μmを一つの目安としています。
今回の被覆秋冬番茶も、火入れ後にサイクロンミルで仕上げる予定です。
そこで確認したいのは、次のような項目です。
- 粉末にしたときの緑色の鮮やかさ
- 秋冬番茶特有の香りの変化
- 旨味と苦味・渋味のバランス
- 粒度と口当たり
- ミルクと混ぜた際の発色と香味
特に期待しているのは、粉砕後の色沢と香味です。
今回の原料は、成分分析から見ても二番茶碾茶に近い特徴を持つ可能性があります。
粉砕後の色が良く、香味にも大きな問題がなければ、比較的安価な加工用原料として活用できそうです。
そもそも碾茶とは?
抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)は、一般的な煎茶とは製造方法が異なります。
碾茶は、茶葉を蒸した後、煎茶のように揉まずに乾燥させて製造するお茶です。
そのため、被覆栽培を行った茶葉を粉砕したからといって、すべてが碾茶由来の抹茶になるわけではありません。
製造方法によって、抹茶と粉末緑茶の名称は適切に使い分ける必要があります。
詳しくは「抹茶は何からできる?原料『碾茶』の作り方と煎茶・ぐり茶との違い」をご覧ください。
今回の取り組みでも、原料の製造方法と最終製品の品質を踏まえて、適切な商品化を進めていきます。
10. 被覆秋冬番茶は、安価な加工用抹茶原料として期待できる
今回の成分分析で、被覆秋冬番茶の可能性がより具体的に見えてきました。
相良村産さえあかりでは、AFスコア20〜21点という、二番茶碾茶にも見られる水準の結果が得られました。
さらに、2023年産の知覧二番茶3検体の平均値と比較すると、遊離アミノ酸、テアニン、タンニンが非常に近い数値でした。
これは、原料としての可能性を考えるうえで重要な結果です。
世界的な抹茶需要の拡大によって、近年は一番茶だけでなく、二番茶や三番茶などの原料価格も上昇しています。
こうした状況では、比較的安価で、色沢と香味に優れた原料の確保がますます重要になります。
今回のような被覆秋冬番茶が実用的な品質に仕上がれば、新たな原料の選択肢となります。
ただし、成分分析の結果が良くても、粉砕後の品質が良くなければ商品にはなりません。
今後は、サイクロンミルで粉末化した製品の色、香り、味を確認し、二番茶などの原料と比較していく予定です。
11. 熊本の茶農家にとって、新たな収入源となる可能性
今回の秋冬番茶の被覆栽培は、単に安い原料を調達するための取り組みではありません。
これまで十分に利用されてこなかった秋の茶葉に、新しい価値を与えることが目的です。
従来、秋冬番茶は価格が安いため、摘採や製造にかかる費用を回収できず、収穫されないこともありました。
しかし、被覆栽培によって品質を高め、加工用抹茶などの原料として販売できれば、農家にとって新しい収入源になります。
もちろん、被覆資材の費用や作業労力、収穫量、翌年の一番茶への影響など、検討すべき課題はあります。
それでも、今回の成分分析結果からは、十分に取り組む価値があると感じています。
秋冬番茶だから品質が低いと決めつけず、実際に栽培し、成分を測定し、加工して確かめる。
山麓園では、こうした取り組みを通じて、熊本産茶葉の新しい可能性を探っていきます。
今後は、今回の被覆秋冬番茶を粉砕した際の品質や、品種・産地による違いについても、引き続きご紹介していく予定です。
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※本記事は2026年10月時点の栽培・分析・製造記録に基づいています。測定結果は個別の試料についての数値であり、茶期や品種全体を代表するものではありません。被覆の効果や最終製品の品質については、今後の比較試験によって検証を進めます。
この記事のライター:株式会社山麓園 代表取締役 甲斐宣史
この記事は、日本茶・健康茶の製造販売を行う株式会社山麓園が、茶葉の仕入れ・製造・販売経験をもとに解説しています。お茶の魅力、健康効果などについて情報を発信。楽天やヤフーショッピングの店長としても活躍中。食前にサラダを山盛り、高温調理の食品は避け、米は玄米と決めていて健康オタクでもあります。
