無農薬の・・というと安全というイメージがあります。
大抵の場合、畑は屋外にあるので、農薬を使用せず収穫するのは労力がかかった上に収穫量が少ないという現実にあります。
田舎は豊かな自然環境にあるので、当然のように大量の虫が存在します。その中で作物を栽培するならば、当然虫だらけになります。虫も自然環境の一員なのです。
無農薬だけれど虫だらけ、または虫食いだらけの野菜やお茶を買う人はいるでしょうか?
天敵を使って虫の発生を抑制し、本当に無農薬でお茶を収穫する人もいます。例えば、大量の蜘蛛を茶木に住まわせ、蜘蛛の巣で害虫を防除する方法です。確かに無農薬ですが、当然のことながら蜘蛛の糸だらけのお茶が出来上がります。もちろん、異物除去はするでしょうが、多少は残っています。
映画にもなった「奇跡のりんご」は、無農薬でりんごの栽培に成功しました。実は、普通に無農薬で栽培すると97%は収穫が減ると言われているので、本当に奇跡だったりします。
・参照:奇跡のりんごについて(wiki)
他の農産物は、りんごほどでないにしろ、無農薬の場合農家さんの収穫量は激減、かかる労力が何倍にも増え、農業としての収益は、とても見込めません。
つまり、農薬は嫌だけれど、虫も嫌だというのは、矛盾しており、ある意味で人間のエゴというべきものなのかもしれません。
オーガニック(有機JAS)は、無農薬ではない
オーガニック、有機栽培は無農薬と信じている方も、多いと思います。
実は、そうではありません。オーガニック(有機栽培)は、天然由来の肥料や農薬に限って使用を許された農法です。その実、健康のための制度ではなく、科学由来の肥料や農薬の使用を避けることで、継続的に土壌などの農業環境を保つ制度なのです。(農業の自然循環機能の維持増進)
例えば、窒素肥料が土壌に浸透し、地下水汚染につながったりするなど。
参照記事:肥料と環境
つまり、オーガニック(有機栽培)は、環境にはいいが農産物を食べる人が望む「無農薬で安全、健康に良い」というわけではないということです。
有機JAS規定も全て、環境に係るもので、人体の安全性などに係る規制は一つもありません。
また有機農薬なら、小量だろうが、たくさん使っても、同じ有機野菜ということになります。使用量の規制はありません。
そして、無農薬という表示は、厳格な規定がないため、「無農薬」、「減農薬」などの表示することを禁止されています。
関連記事:本当は危険な有機野菜 安全? 健康にいい? 何の根拠もありません
有機栽培とそうでないものの違いは?
有機栽培(オーガニック)の野菜は、天然由来の肥料や農薬が使用されるのに対し、そうでない野菜は、化学的に合成された農薬を使用するという点です。オーガニック=無農薬と思っている方や何となく安全そうなイメージがあることから、農家にとっては、付加価値としてより高い値段で販売できるというメリットがあります。実際の安全性については、後述します。
結局、有機野菜と普通の野菜の安全性は変わらない?
農薬は猛毒ではない
例えば、有機栽培でない野菜を食べ癌になったという話を聞いたことはありますか?残留農薬の基準値は、「人間が一生食べ続けても問題ない量」とされています。例え基準値を多少超えた農作物を1回食べたからと言って、健康被害が起こるとは考えにくいのが現実的な見解と言えるでしょう。有機栽培でない普通の野菜を食べて癌になった、病気になったという人は、事実としていないのが本当のところです。
家庭菜園をされている方が、「農薬を誤ってさわってしまった」、「手にかかってしまった」などの相談を見かけます。おそらく、「農薬=猛毒」と誤解されている方も多いでしょう。しかし、農薬は人間にとっては、猛毒ではありません。安全検査を適切に行い、安全と認められたものだけが販売されています。
天然由来の有機農薬と化学合成された農薬の違いとは
人間が作り出す化学物質は、天然の成分に比べてより危険なイメージがあります。本来自然界において存在しない化学物質が、実は危険だという話もあります。直接的な危険性は、検査を行っているため、あまり変わりません。一方で、化学物質のアレルギーなどの危険性は考えられます。しかし、天然のものでも、ピーナッツアレルギーや小麦アレルギー、花粉症などもあるので、天然成分だから絶対に大丈夫というわけでもありません。
農薬の危険性 どれくらい残留農薬ある食品を食べると死んでしまうのか?農薬(殺菌剤)の例
殺菌剤ダコニールは、お茶の場合、残留農薬としての上限値が1ppmとなっています。1ppmは100万分の1の濃度を指します。実際茶葉から検出される値は、検出されずか、上限値以下になります。マウス実験では、ダコニールの半数致死量が2279mg/kgです。食塩が3000mg/kgであることから、ダコニールの毒性は食塩と大差ないということになります。例として、100万分の1以下の濃度というと、体重70㎏の人は残留農薬が上限値MAXのお茶を一度に160トン食べないと到達しないという計算になります。
農薬や食品添加物など化学合成させた成分の危険性
人が作り出した化学物質は、天然の物質よりも危険な一面は、無視できません。天然には存在しない、マーガリンなどに含まれる、トランス脂肪酸は、心臓発作の原因として指摘され、アメリカなどでは、使用が禁止されています。他に、人工甘味料で知られるスクラロースは、農薬の開発中に発見された食品添加物。砂糖の数百倍の甘さがあり、化学構造がダイオキシンに似ていることから、糖尿病などのリスクを指摘されています。
このように、天然でない人口の成分は、人間や生物にとって馴染みのない成分なので、体に合わないことも多いのが事実です。危険な食品添加物は、健康維持のため、出来るだけ避けるべきでしょう。しかし、食品添加物と残留農薬とでは、全く話が違ってきます。1ppmは百万分の1の濃度です。食品のように100g対してg単位、mg単位とは、また次元の違う値なので、基準値内の残留農薬で健康を損なう可能性は極めて低いと言えるでしょう。
実際に基準値内の残留農薬で、健康被害に遭ったという報告を聞いたことがあるでしょうか?実は、そういった報告は、少なくとも日本国内ではありません。そして、残留農薬が100%安全かというと、それを証明するには、数万人単位で毎日同じ野菜を食べて、病気になったり、死んだときにその原因を調べ続ける必要があります。そんなことは、出来るはずもないので、つまり、100%の安全を証明することは不可能です。だから、残留農薬は危険性はないけれど、100%安全ということはできない、というのが本当のところだと思います。
多くの方が、自分自身の健康のために、有機野菜を選んでそればかりを食べています。しかし、健康を目指すのであれば、無農薬の野菜や、有機栽培の野菜を食べることよりも、たばこをやめたり、塩分の低い食品を避けたり、砂糖などの血糖値を急激に上げてしまう食品を諦めた方が、健康効果としての科学的根拠があり、より健康によいということです。また、食品添加物は健康被害の報告も多いので、出来るだけ避け、高温調理の食品や加工食品も出来るだけ食べないことをおすすめします。
そして、有機栽培も結局、天然由来ではあるものの、農薬には違いないという点を憶えておきましょう。
「毒性学の父」と言われるルネサンス期の医師パラケルススの言葉です。
「全ての物質は毒であり、毒でないものはない。服用量が毒か薬かを決める」
化学物質は危ない?
化学(合成)物質のイメージ一般的に化学物質は「危険」で、天然(自然)の物質は「安全」というイメージがあります。
実際には、世の中の全てのモノは化学物質からできており、化学的に合成された物質も、天然の物質も、同じ物質ならば、性質に全く違いはありません。
天然(自然)由来物質であっても、トリカブトなどの植物やふぐなどの魚介類、細菌がつくる毒素など、危険なものがあります。天然(自然)物質は全て安全で、化学(合成)物質は全て危険ということはありません。
参照:農林水産省のページより
科学合成の農薬や肥料が危険かどうかは、量によるもです。例え有機JASでも、農薬をたくさん使えば、有機JASでない野菜よりも安全とは言えません。
農薬について詳しい記事:農薬はどれくらい危険なのか?カロリーゼロの飲料1本の添加物の毒性は、残留農薬上限のキャベツ15,906個分!
有機栽培と健康寿命の相関関係は見られない
全耕作面積うち有機栽培の占める割合(上位5国+日本)と健康寿命の関連を比べてみました。
有機栽培順位 | 国名 | 有機栽培の割合 | 健康寿命 |
1 | イタリア | 14.5% | 71.9歳 |
2 | スペイン | 8.7% | 73.8歳 |
3 | ドイツ | 7.5% | 71.8歳 |
4 | フランス | 5.5% | 72.1歳 |
5 | イギリス | 2.9% | 70.6歳 |
圏外 | 日本 | 0.2% | 74.1歳 |
- 出典(健康寿命):WHO世界保健統計(World Health Statistics)
- 出典(有機栽培割合):農林水産省 有機農業をめぐる我が国の現状について
健康寿命は、人種、食生活や文化、気候により比較は難しいですが、ヨーロッパ上位5国で検証してみても、有機栽培の割合と健康寿命の相関関係があるとは言えません。
単純に考えると日本は、有機栽培の割合が0.2%と低く、イタリアのわずか72.5分の1の割合ですが、健康寿命は74.1歳と世界最高を誇っています。
この結果から、有機栽培が人間の健康寿命に寄与している可能性は低いと言えます。
まとめ:健康と楽しい生活のために
有機(オーガニック)野菜は無農薬ではなく、あくまで農業環境の維持と増進を目的とした規定によるもの。そして、化学合成の農薬でも、基準値内であれば人間にとって猛毒となる危険なものではないということを知っておくと良いでしょう。
いつもみかんを納品に来られる農家さんが、言っていました。本当に農薬が危険なら、食べる人でなく、散布中に農薬を被る我々農家がまず死にますよと。
確かに、農家さんの死亡率が極端に高いという話は、聞きません。
農薬事故は、もちろんありますが、過去5年で年間平均25件(40人)となっています。主な原因は、誤飲誤食です。農薬そのものを間違って飲んだり、食べたりしてしまえば、当然おなかを壊したり、気分が悪くなったりするそうです。手に農薬が付着したくらいなら、洗えば心配するほどのことではありません。
口に入れるものなので、化学合成された農薬、除草剤を使用したものよりも、天然由来の農薬を使用している有機野菜の方が安心できるところはあると思います。また、自然環境の維持に役に立つという点で、エコロジーな一面も選択の大きなメリットとしてあると思います。一方で、価格が高い、欲しい野菜や果物、美味しいお茶が手に入らないなどのデメリットもあります。
残念なことに、残留農薬が気になるから、有機野菜以外は食べない、粉末緑茶は健康にいいと聞くけど、残留農薬が気になるので飲んだり食べたりはしたくないなどの声を耳にすることがあります。
過剰に有機野菜にこだわったり、残留農薬を気にしすぎるのは、健康効果という観点からは、あまり意味がないことです。それよりも、必要なビタミンを摂取し、色々な野菜やお茶などがもつ健康効果を生かした方が、健康的で楽しい生活のためにメリットが大きいと思いませんか?