
「桑の葉茶は血糖値が気になる人によい」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
では、実際に桑の葉を摂取すると、血糖値はどのくらい変わるのでしょうか。
結論から先に言うと、ヒトを対象とした研究では、一定の条件下で食後血糖値の上昇が抑えられた結果が複数報告されています。
たとえば、血糖値がやや高めの人を対象とした日本の臨床試験では、白米200gを食べた30分後の平均血糖値が、
- 桑葉エキスなし:145mg/dL
- DNJ 6mg摂取:121mg/dL
- DNJ 9mg摂取:114mg/dL
となりました。
つまり、この試験条件では、食後30分の平均血糖値に24~31mg/dLの差が確認されています。DNJ 6mg群、9mg群はいずれもプラセボと比較して統計的に有意に低い値でした。
また、複数の臨床試験をまとめた2023年のメタ解析では、桑葉または桑葉エキスの摂取によって、空腹時血糖値が平均0.47mmol/L低下しました。mg/dLに換算すると約8.5mg/dLです。HbA1cについても平均2.92mmol/mol、一般的な%表示に換算すると約0.27ポイントの低下が報告されています。
ただし、ここで注意しなければならないことがあります。
これらは「桑の葉茶を飲めば誰でも血糖値が20~30mg/dL下がる」という意味ではありません。
研究によって、桑の葉そのもの、桑葉粉末、DNJを濃縮した桑葉エキスなど使用したものが異なり、DNJの摂取量、対象者、食事内容、摂取期間も違います。
そこでこの記事では、「桑の葉は血糖値によい」という曖昧な説明ではなく、実際のヒト試験で、何をどのくらい摂取し、血糖値がどの程度変化したのかを研究結果から見ていきます。
※本記事は桑の葉・桑葉成分に関する学術研究を紹介するものであり、特定の商品について病気の治療・予防効果を示すものではありません。
なぜ桑の葉と血糖値の関係が研究されているのか?
桑の葉に特徴的な成分として知られているのが、**1-デオキシノジリマイシン(DNJ)**です。
DNJは糖に似た構造を持つ成分で、小腸で糖質を分解するα-グルコシダーゼという酵素の働きに関係することが知られています。
ご飯やパン、麺、砂糖などに含まれる糖質は、そのまますべて吸収されるわけではありません。消化酵素によって小さな糖に分解されてから体内に吸収されます。
DNJについては、この糖質の消化・吸収過程に作用することによって、食後の急激な血糖上昇を穏やかにする可能性が研究されています。
そのため、桑の葉研究を見る場合には、「血糖値そのものを恒常的に下げるのか」と「食後の血糖上昇を抑えるのか」を分けて考える必要があります。
研究① DNJを6~9mg摂取すると食後30分の血糖値に24~31mg/dLの差
まず、非常に分かりやすい研究があります。
2011年に日本で行われたランダム化二重盲検クロスオーバー試験です。
対象となったのは、空腹時血糖値が100~140mg/dLの男女です。
被験者は、
- DNJ 0mg(プラセボ)
- DNJ 3mg
- DNJ 6mg
- DNJ 9mg
のいずれかを摂取し、その15分後に白米200gを食べました。
白米を含む試験食の糖質量は70gです。血糖値は食前と食後30分、60分、90分、120分に測定されました。最終的に10名のデータが解析されています。
実際の血糖値
| DNJ摂取量 | 食前 | 30分 | 60分 | 90分 | 120分 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0mg(プラセボ) | 110 | 145 | 171 | 162 | 158 |
| 3mg | 117 | 131 | 171 | 174 | 157 |
| 6mg | 116 | 121 | 166 | 178 | 146 |
| 9mg | 108 | 114 | 147 | 160 | 151 |
単位:mg/dL
特に大きな違いが出たのが食後30分です。
プラセボが145mg/dLだったのに対し、
DNJ 6mgでは121mg/dL → 24mg/dL低い
DNJ 9mgでは114mg/dL → 31mg/dL低い
という結果でした。
6mg群と9mg群の30分値はプラセボより統計的に有意に低い結果です。
ただし、これは同じ人の血糖値が145から121mg/dLに「下がった」という意味ではありません。
クロスオーバー試験における、それぞれの条件での食後30分の平均値を比較した差です。
また興味深いことに、60分、90分、120分と時間が経過すると、30分時点ほど単純な差ではなくなっています。
この研究からは、桑葉由来DNJの特徴として、特に食後早期の血糖値上昇に影響したことが読み取れます。
研究② 12週間続けるとHbA1cはどうなった?
では、毎日続ければHbA1cも大きく下がるのでしょうか。
同じ2011年の研究では、空腹時血糖値110~140mg/dLの76人を対象として、より長期間の試験も行われています。
桑葉エキス群では、
DNJ 6mgを1日3回、食前に12週間
摂取しました。
12週間後の結果を見ると、
空腹時血糖値
桑葉エキス群
114mg/dL → 114mg/dL
HbA1c
桑葉エキス群
6.0% → 5.8%
となりました。
「HbA1cが0.2ポイント下がった」と思いたくなりますが、プラセボ群でも、
5.9% → 5.8%
となっています。
研究全体として比較すると、空腹時血糖値やHbA1cについて桑葉エキス群とプラセボ群の間に有意な差は確認されませんでした。
一方、食後血糖の変動を比較的敏感に反映する指標である1,5-AGについては桑葉エキス群で改善し、8週・12週時点ではプラセボ群との差も確認されました。
この結果は非常に重要です。
桑の葉については、
「血糖値を継続的に大幅に下げる」というより、「食事をした後の血糖値の上がり方に作用する」
という特徴を考える必要がありそうです。
少なくとも、この研究だけから「桑の葉を12週間飲めばHbA1cが○%下がる」とは言えません。
研究③ 別の12週間試験では空腹時血糖値が約3.9mg/dL、HbA1cが0.11ポイント低下
一方で、長期間の摂取によって空腹時血糖値やHbA1cに変化が確認された研究もあります。
2020年には、肥満があり血糖値が境界域にある人を対象として、桑葉の摂取試験が行われています。
この研究では最初にDNJの摂取量を調べ、12mgのDNJが食後血糖上昇を抑える最小有効量だったと報告されています。
その後の12週間試験では、DNJ 12mg相当の桑葉を1日3回摂取しました。
その結果、開始時と比較して、
空腹時血糖値:平均3.86mg/dL低下
HbA1c:平均0.11ポイント低下
しました。
ただし、この数値についても注意が必要です。
これは開始時からの変化であり、「桑葉を摂取しなかった人より必ず3.86mg/dL下がる」という意味ではありません。
また、同研究では糖負荷試験による耐糖能そのものの改善は確認されませんでした。
研究④ 複数の臨床試験をまとめると空腹時血糖値は平均約8.5mg/dL低下
1件の研究だけでは、たまたまその研究で結果が出た可能性もあります。
そこで参考になるのが、多くの研究結果をまとめて統計解析する「メタ解析」です。
2023年に公表された桑葉・桑葉エキスのランダム化臨床試験を対象とした系統的レビュー・メタ解析では、桑葉または桑葉エキスの摂取によって、
空腹時血糖値:平均 −0.47mmol/L
HbA1c:平均 −2.92mmol/mol
空腹時インスリン:平均 −0.58μIU/mL
という結果が報告されました。
日本で一般的な単位にすると、
空腹時血糖値
0.47mmol/L × 約18 = 約8.5mg/dL
HbA1c
2.92mmol/mol = 約0.27ポイント
に相当します。
つまり、複数の臨床試験をまとめた結果では、
空腹時血糖値:約8.5mg/dL低下
HbA1c:約0.27ポイント低下
というのが一つの目安となります。
ただし、メタ解析に含まれる研究は、使用した桑葉の形態、DNJ量、摂取期間、対象者などが同じではありません。
したがって、この平均値を「桑の葉茶を飲んだ場合の予想値」としてそのまま当てはめることはできません。
では結局、桑の葉で血糖値はどのくらい変わるのか?
ここまでのヒト試験を数字だけで整理すると、次のようになります。
| 調べたもの | 研究で確認された数値例 |
|---|---|
| 食後30分血糖 | DNJ 6mgでプラセボより24mg/dL低い |
| 食後30分血糖 | DNJ 9mgでプラセボより31mg/dL低い |
| 12週間の空腹時血糖 | 約3.9mg/dL低下した試験あり |
| 12週間のHbA1c | 0.11ポイント低下した試験あり |
| 複数研究の空腹時血糖 | 平均約8.5mg/dL低下 |
| 複数研究のHbA1c | 平均約0.27ポイント低下 |
ここから分かるのは、「全く数字が出ていない」わけではないということです。
一定量のDNJを含む桑葉や桑葉エキスを摂取したヒト試験では、特に食後の血糖値について、はっきりした差が確認された研究があります。
一方で、長期間摂取してもHbA1cや空腹時血糖値についてプラセボとの差が確認されなかった研究もあります。
したがって現在の研究結果を見る限り、
桑の葉について比較的分かりやすく結果が出ているのは、空腹時血糖値を大幅に低下させる作用よりも、糖質を摂取した後の急激な血糖上昇を抑える作用
と考える方が研究結果を説明しやすいでしょう。
「桑の葉茶」でも同じ結果になるのか?
ここが非常に重要な点です。
臨床研究で使用されているものは、すべて一般的な桑の葉茶ではありません。
たとえば2011年の日本の研究で使用された桑葉エキスは、DNJを約1.5%まで濃縮したものでした。
研究者らは、それ以前に調査した一般的な市販桑葉製品では、DNJ含有量が乾物あたり約0.1%程度のものが多かったとも報告しています。
つまり、
「桑の葉を使っている」=「同じ量のDNJを摂取できる」
ではありません。
桑の品種、栽培条件、収穫時期、加工方法などによって成分量が異なる可能性があります。
また、
- 桑の葉をお湯で抽出する「桑の葉茶」
- 葉そのものを摂取する「桑の葉パウダー」
- DNJを一定量に調整した「桑葉エキス」
も同じではありません。
そのため、DNJ 6mgを使用した臨床試験の結果を、そのまま市販の桑の葉茶1杯に当てはめることはできません。
実際に「桑の葉茶」を飲ませた研究もある
桑葉エキスだけではなく、実際に「mulberry tea(桑の葉茶)」を使用したヒト研究もあります。
2015年に2型糖尿病患者を対象として行われた研究では、20人が普通のお茶、28人が桑の葉茶を飲み、食後90分の血糖値を比較しました。
平均値は、
普通のお茶:287.20mg/dL
桑の葉茶:210.21mg/dL
でした。
数字だけを見ると約77mg/dLもの差があります。
ただし、この研究ではもともとの空腹時血糖値も、
普通のお茶群:178.55mg/dL
桑の葉茶群:153.50mg/dL
とかなり異なっています。また、現在の基準から見ると研究デザインにも限界があります。
したがって、
「桑の葉茶を飲めば血糖値が77mg/dL下がる」
と解釈するのは適切ではありません。
一方で、桑葉エキスだけでなく、桑の葉を飲料として摂取した研究でも食後血糖値への影響が調べられている、という点では参考になります。
DNJは多ければ多いほどよいのか?
2011年の試験を見ると、DNJ 3mg、6mg、9mgと摂取量が増えるにつれて食後30分の血糖値が低くなる傾向が見られました。
2020年の用量試験でも、DNJ 6mg、12mg、18mgを比較し、12mgが食後血糖上昇を抑える最小有効量だったと報告されています。
しかし、「多く摂れば摂るほどよい」とまでは言えません。
桑葉による糖質の消化・吸収への作用は、摂取量を増やせば作用が無制限に強くなるものではありませんし、2020年の研究では膨満感、放屁、軟便などの消化器症状も報告されています。
研究結果から用量をそのまま自己判断で再現しようとするのは避けるべきでしょう。
血糖値が高い人ほど変化が大きい可能性はある?
2023年のメタ解析では、8週間以上継続した研究や、もともとの空腹時血糖値が6.1mmol/Lを超えている人などで、血糖関連指標への影響が大きくなる傾向が示されました。
これは、
「もともと血糖値に問題がない人」と
「血糖値が高めの人」
では、同じものを摂取しても結果が異なる可能性があるということです。
そのため「桑の葉を飲んだら血糖値が何mg/dL下がるのか」という問いに対して、一つの数字だけを全員に当てはめることはできません。
しかし、だからといって「何も分かっていない」というわけでもありません。
研究条件を限定すれば、食後血糖値で20~30mg/dL程度の差が出た試験や、複数の研究をまとめると空腹時血糖値が平均約8.5mg/dL低かったという結果まで確認されています。
まとめ|桑の葉の研究では「食後血糖」に注目
桑の葉と血糖値について調べたヒト試験を見ていくと、「桑の葉は血糖値によいらしい」という曖昧な話より、かなり具体的なことまで分かっています。
特に注目したいのは、DNJを一定量含む桑葉を糖質と一緒に摂取したときの食後血糖値です。
日本の臨床試験では、白米200gを食べた30分後の平均血糖値が、
プラセボ:145mg/dL
DNJ 6mg:121mg/dL
DNJ 9mg:114mg/dL
となり、6mg、9mgでは有意な差が確認されました。
一方、長期間摂取した試験では、空腹時血糖値やHbA1cについて明確な差が出なかった研究もあります。
複数の臨床試験をまとめたメタ解析では、空腹時血糖値で平均約8.5mg/dL、HbA1cで約0.27ポイントの低下が報告されています。
したがって現在の研究結果を整理すると、
桑の葉は「血糖値を大幅に下げるもの」と考えるより、含まれるDNJと食後の糖質吸収・血糖上昇との関係に注目して研究されている食品
と理解するのが適切でしょう。
そして最も重要なのは、研究で使用された桑葉と、市販されている桑の葉茶がすべて同じではないことです。
「桑の葉である」というだけではなく、
どの程度のDNJを含んでいるのか
まで分からなければ、研究結果と市販の桑の葉茶を直接比較することはできません。
今後さらに研究が進み、桑の品種や栽培条件、加工方法、DNJ含有量と食後血糖値との関係が明らかになれば、桑の葉茶についてより具体的な判断ができるようになると考えられます。
なお、糖尿病の治療中の方や血糖降下薬を使用している方は、食品による自己判断で治療内容を変更せず、医師や薬剤師などの専門家に相談してください。
主な参考文献
- Asai A, et al. Effect of mulberry leaf extract with enriched 1-deoxynojirimycin content on postprandial glycemic control in subjects with impaired glucose metabolism. Journal of Diabetes Investigation. 2011.
- Thaipitakwong T, et al. A randomized controlled study of dose-finding, efficacy, and safety of mulberry leaves on glycemic profiles in obese persons with borderline diabetes. Complementary Therapies in Medicine. 2020.
- Cui W, et al. Effect of mulberry leaf or mulberry leaf extract on glycemic traits: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. 2023.
- Banu S, et al. Reduction of post-prandial hyperglycemia by mulberry tea in type-2 diabetes patients. Saudi Journal of Biological Sciences. 2015.

