「さやまかおり」は、さえみどりややぶきたほど一般消費者に知られた品種ではありません。
しかし、実際に茶農家から茶葉を仕入れ、品種ごとの味を比較している私たちにとって、さやまかおりはもっと評価されてもよい、隠れた実力派品種です。
露地栽培では、緑茶らしい良質な渋みと力強い味が出やすく、被覆栽培すると旨味と香りのバランスがよいお茶になります。
弊社では2026年から、煎茶だけでなく抹茶原料としても注目しています。牛乳や甘味に負けない、パワフルなラテ用抹茶を作るための配合品種として、さやまかおりの可能性を検討しています。
さやまかおりは、埼玉県茶業試験場が「やぶきた」の自然交雑実生から選抜し、1971年に育成した緑茶用品種です。茶農林31号として登録されています。
埼玉県では、やぶきたより少し早く摘採される「やや早生」の品種です。寒さに強く、樹勢と収量性に優れ、濃厚な色と味を持つことが特徴とされています。
| 品種名 | さやまかおり |
|---|---|
| 茶農林登録番号 | 茶農林31号 |
| 育成地 | 埼玉県茶業試験場 |
| 育成年 | 1971年 |
| 来歴 | やぶきたの自然交雑実生から選抜 |
| 摘採時期 | やや早生 |
| 一般的な特徴 | 濃厚な色と味、強い樹勢、耐寒性、多収性 |
九州の茶品種というと、ゆたかみどり、さえみどり、あさつゆ、おくみどりなどがよく知られています。
特に鹿児島県では、さやまかおりを見かけることはほとんどありません。鹿児島県の品種別栽培面積資料でも、さやまかおりは独立した品種として掲載されていません。
一方、熊本県では、弊社が取引や相談をしている複数の茶農家が、さやまかおりを栽培しています。熊本県の奨励品種にも含まれており、熊本の茶産地では決して珍しすぎる品種ではありません。
埼玉県生まれの品種ではありますが、熊本の気候や露地栽培との相性がよく、地域によっては長く栽培されてきた品種です。
ここからは、品種資料に記載された一般的な特徴だけでなく、弊社が実際に茶葉を仕入れ、製造してきた経験から、さやまかおりを評価している理由をご紹介します。
弊社が「渋めのお茶を作りたい」と考えたとき、まず候補に浮かぶ品種の一つが、露地栽培のさやまかおりです。
ここでいう渋みは、単に苦くて飲みにくいという意味ではありません。口の中を引き締めるような爽快感があり、食事にも合わせやすい、緑茶らしい渋みです。
近年は、渋みを抑えた甘み中心のお茶が好まれる傾向があります。しかし、昔ながらのしっかりした日本茶を好む方にとっては、適度な渋みとコクも大切な味の要素です。
さやまかおりは、そのような「飲んだという満足感のあるお茶」を作りやすい品種だと感じています。
さやまかおりは、露地栽培だけに向いた品種ではありません。
摘採前に茶園を被覆して日光を遮ると、露地栽培で感じられる力強い渋みがやわらぎ、旨味と香りのバランスがよいお茶に仕上がります。
さえみどりのような柔らかい甘みとは少し異なり、さやまかおりらしい味の芯を残しながら、旨味が加わる印象です。
露地では渋みと力強さ、被覆すると旨味と香り。同じ品種でも栽培方法によって異なる長所を引き出せることが、さやまかおりの面白さです。
弊社の仕入れ経験では、さやまかおりは品質が高くても、比較的手頃な価格で取引されることがあります。
もちろん、価格は茶期、摘採時期、被覆の有無、製造状態、その年の相場によって変わるため、常に安いとは限りません。
しかし、さえみどりなどの人気品種と比べると、さやまかおりは消費者の知名度が高くありません。品種名だけで高値になりにくいため、味と価格のバランスに優れた原料を見つけられる場合があります。
品種名の知名度ではなく、実際の茶葉の品質で選ぶなら、さやまかおりは狙い目の品種ではないでしょうか。
熊本の農家からは、「さやまかおりは芽や枝の形状に特徴があり、虫害を受けにくい」という話を聞くことがあります。
公的な研究でも、さやまかおりは茶の難防除害虫であるクワシロカイガラムシに対して強い抵抗性を持つことが確認されています。
この特性は育種でも利用され、さやまかおり由来の抵抗性遺伝子を受け継ぐ新品種も開発されています。
ただし、「虫に強い」ことと「病害虫すべてに強い」ことは同じではありません。熊本県の防除資料では、さやまかおりは炭疽病への抵抗性が弱い品種とされています。
そのため、正確には「クワシロカイガラムシには強いが、病気を含めて何にでも強い品種ではない」と説明するのが適切です。
弊社では2026年から、さやまかおりを煎茶だけでなく、抹茶原料としても注目しています。
海外を中心に抹茶ラテの需要が拡大していますが、牛乳や砂糖を加えると、繊細で穏やかな抹茶の味は隠れやすくなります。
ラテ用抹茶には、色の鮮やかさだけでなく、牛乳に負けない香り、コク、適度な苦渋味が必要です。
さやまかおりは、もともと味の輪郭がはっきりしており、露地栽培では力強い渋みが出ます。被覆方法や摘採時期を調整すれば、その力強さを残しながら旨味を加えることも可能です。
弊社では現在、ラテに使用しても味が埋もれない、パワフルな熊本産抹茶を作るため、さやまかおりを配合した原料開発を進めています。
さやまかおり100%が必ず最良ということではありません。さえみどり、さえあかり、おくみどりなど、色や旨味に優れた品種と組み合わせることで、色、香り、旨味、苦渋味のバランスを設計できます。
抹茶原料としての知名度はまだ高くありませんが、用途をラテや菓子に広げて考えると、非常に可能性のある品種だと考えています。
| 品種 | 味の傾向 | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| さやまかおり | 濃厚で力強く、良質な渋みがある | 露地と被覆で異なる特徴を引き出せる | 食中茶、濃い煎茶、抹茶ラテ、製菓 |
| やぶきた | 旨味、渋み、香りのバランスがよい | 標準的で幅広く好まれやすい | 日常茶、上級煎茶、合組 |
| さえみどり | 渋みが少なく、甘みと旨味が強い | 鮮やかな緑色になりやすい | 上級煎茶、かぶせ茶、抹茶 |
甘みや鮮やかな色を最優先するなら、さえみどりが選ばれやすいでしょう。
一方で、香り、コク、渋みを含めた味の力強さを求めるなら、さやまかおりには独自の魅力があります。
さやまかおりは、湯温を高くすると香りと渋みが強く出ます。最初は70~75℃程度のお湯で淹れ、好みに合わせて調整するのがおすすめです。
| 茶葉 | 約5g |
|---|---|
| 湯量 | 約180ml |
| 湯温 | 70~75℃ |
| 抽出時間 | 約60秒 |
渋みが強いと感じた場合は、茶葉の量を大きく減らすより、湯温を下げるか、抽出時間を短くしてください。
食事に合わせて爽快な渋みを楽しみたい場合は、80℃前後のお湯を使い、やや短時間で抽出すると、さやまかおりらしい力強さが出ます。
さやまかおりは、埼玉県で生まれた、濃厚な色と味を持つ緑茶品種です。
鹿児島県ではほとんど見かけませんが、熊本県では複数の茶農家が栽培しています。
露地栽培では良質な渋みと力強い味、被覆栽培では旨味と香りのバランスを引き出せます。品質の割に比較的手頃な価格で取引される場合もあり、味と価格の両面から見て狙い目の品種です。
弊社では煎茶原料としてだけでなく、牛乳に負けないラテ用抹茶を作るための原料としても評価しています。
世間の注目度はまだ高くありません。しかし、実際に茶葉を見て、飲み、加工している立場からすると、個人的に今後も注目していきたい品種の一つです。
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執筆・監修:株式会社山麓園 代表取締役 甲斐宣史
日本茶・健康茶の仕入れ、製造、火入れ、合組、粉砕、商品開発に携わっています。熊本県内の茶農家から品種別の茶葉を仕入れ、煎茶、玉緑茶、抹茶などの用途に応じた原料開発を行っています。