「おくゆたか」という品種は、どんなお茶?

「おくゆたか」は、一般の方にはあまり知られていない茶品種です。

さえみどりのような鮮やかな緑色や、あさつゆのような分かりやすい甘味が注目される品種ではありません。しかし、実際に飲んでみると、重厚な旨味と芳醇な香りがありながら、後味は意外にすっきりしている、完成度の高いお茶です。

以前の記事でも書きましたが、おくゆたかは個人的に好きな品種の一つです。

目を引く派手さよりも、飲み進めるほど良さが分かってくるタイプで、品種茶を飲み慣れた方にもおすすめできます。

近年の成分研究では、被覆した蒸し製玉緑茶の主要6品種を比較したところ、おくゆたかの総アミノ酸量が最も多かったという結果も報告されています。

鹿児島県産「おくゆたか」。旨味の厚さと、すっきりした後味が特徴です。

おくゆたかとは?ゆたかみどりを親に持つ中晩生品種

おくゆたかは、「ゆたかみどり」を種子親、「F1NN8」を花粉親として交配し、育成された緑茶用品種です。1983年に茶農林34号として登録されました。

親のゆたかみどりは、やぶきたより早く摘採される早生品種です。一方、おくゆたかは、やぶきたより遅く摘採される中晩生品種です。

品種名おくゆたか
茶農林登録番号茶農林34号
交配ゆたかみどり × F1NN8
登録年1983年
摘採時期やぶきたより遅い中晩生
味の傾向旨味が強く、渋みは比較的穏やか
香り芳醇で品種特有の存在感がある
栽培上の特徴樹勢が強く、多収。摘採適期は比較的狭い

摘採時期がやぶきたと異なる品種を組み合わせることは、生産者にとっても意味があります。

やぶきただけを大面積で栽培すると、摘採と製茶の時期が一度に集中します。早生・中生・晩生の品種を組み合わせることで、摘採時期を分散させ、適期を逃さずに製造しやすくなります。

摘採適期が狭く、タイミングが品質を左右する

おくゆたかは、樹勢が強く、収量性に優れる品種とされています。

ただし、佐賀県の品種資料では、摘採適期が比較的狭いため、摘み遅れに注意が必要とされています。

茶葉は成熟が進むほど繊維が増え、旨味に関係する成分の割合が低下していきます。特におくゆたかのように旨味が長所となる品種では、摘採のタイミングを逃すと、本来の魅力が十分に出にくくなります。

品種名が同じでも、摘採時期、芽の熟度、被覆、蒸し方などによって、味は大きく変わります。「おくゆたかなら必ず旨味が強い」とは限らない点には注意が必要です。

山麓園が感じる、おくゆたかの味

山麓園で取り扱ってきたおくゆたかには、厚みのある旨味、芳醇な香り、すっきりした後味があります。

旨味が強いといっても、さえみどりのように柔らかく上品な甘味を前面に出すタイプとは少し異なります。

おくゆたかの旨味には、もう少し重厚感があります。口に含んだ直後は味に厚みがありますが、後口には強い渋みが長く残らず、意外に爽やかです。

やぶきたとは異なる品種香もあり、飲み慣れるほど個性が分かってきます。

万人に一口で分かりやすいというよりも、いろいろな品種茶を飲んだ方が「これは少し違う」と気付くような、玄人好みの面を持つ品種だと思います。

研究では、主要6品種の中でアミノ酸量が最多

おくゆたかの旨味については、品種の印象だけでなく、成分研究でも興味深い結果が報告されています。

佐賀県茶業試験場は、2020年と2021年に西九州茶連へ出荷された、被覆栽培の蒸し製玉緑茶を品種別に分析しました。

比較された品種は、やぶきた、さえみどり、あさつゆ、さえあかり、おくみどり、おくゆたかの6品種です。

品種総アミノ酸量テアニン
やぶきた45.0mg/g23.3mg/g
さえみどり55.3mg/g27.8mg/g
あさつゆ51.6mg/g27.7mg/g
さえあかり59.6mg/g32.3mg/g
おくみどり56.9mg/g26.2mg/g
おくゆたか63.8mg/g36.0mg/g
佐賀県茶業試験場「県内主要チャ品種の品質関連成分・色相角度の特徴」より

この調査では、おくゆたかの総アミノ酸量とテアニン量が、比較した6品種の中で最も高くなりました。

テアニンは、緑茶の旨味や甘味に関係する代表的なアミノ酸です。おくゆたかを飲んだときに感じる厚みのある旨味は、成分面からも説明できる可能性があります。

ただし、この数値は、西九州で生産された被覆一番茶のサンプルを一定条件で比較した結果です。すべての地域、茶園、年度のおくゆたかに、そのまま当てはまるものではありません。

色の鮮やかさでは、さえみどりやあさつゆが優位

成分分析で興味深いのは、おくゆたかが、すべての項目で最も優れていたわけではないことです。

同じ研究で荒茶粉砕物の色を比較すると、緑色の強さを示す色相角度は、さえみどりが最も高く、次いであさつゆでした。おくゆたかは、6品種の中で特に緑色が強い品種ではありませんでした。

現在は、茶葉や水色の鮮やかな緑色が、商品写真や店頭で評価されやすい傾向があります。

その点では、おくゆたかは、さえみどりやあさつゆほど分かりやすい品種ではありません。

しかし、実際に飲めば、アミノ酸の多さ、重厚な旨味、香り、後味のよさがあります。見た目よりも、飲んだときの味で選びたい品種といえるでしょう。

被覆栽培で品質は高まるが、毎年の被覆には注意も必要

おくゆたかは、摘採前に茶園を覆って日光を遮る被覆栽培によって、品質が高まりやすいとされています。

被覆すると、渋みに関係するカテキンの生成が抑えられ、旨味に関係するアミノ酸が茶葉に残りやすくなります。葉色も濃くなり、濃厚な味のお茶に仕上げやすくなります。

ただし、被覆すればするほどよいわけではありません。

佐賀県が複数品種を対象に行った連年被覆試験では、おくゆたかも被覆によって全窒素が増え、タンニンと繊維が低下しました。一方、4年間被覆を続けた区では、一番茶収量が無被覆区の約78%まで減少しています。

おくゆたかでは、主に芽数の減少が収量低下につながったとされています。

品質を上げるための被覆と、茶樹の生育や翌年以降の収量とのバランスを取ることが重要です。

「病気に強い品種」と一括りにはできない

おくゆたかは、古い品種紹介などで「病気に強い」と説明されることがあります。

しかし、病害への抵抗性は、病気の種類によって異なります。

例えば、熊本県の病害虫防除指針では、おくゆたかの輪斑病に対する抵抗性は「弱」に分類されています。

そのため、「病害全般に強く、栽培しやすい」と説明するのは正確ではありません。地域の気候や発生しやすい病気に応じた栽培管理が必要です。

ゆたかみどり・おくみどり・さえみどりとの違い

品種摘採時期味の傾向主な魅力
おくゆたか中晩生重厚な旨味、穏やかな渋み、すっきりした後味アミノ酸の多さと芳醇な品種香
ゆたかみどり早生濃厚でコクがあり、適度な渋みがある深蒸し茶と被覆栽培との相性
おくみどり晩生上品で落ち着いた旨味と香り色沢がよく、合組にも使いやすい
さえみどり早生甘味と旨味が強く、渋みが少ない鮮やかな緑色と分かりやすい上品さ

おくゆたかは、親であるゆたかみどりの濃厚さを受け継ぎながら、摘採時期は遅く、渋みが比較的穏やかな品種です。

同じ晩生系統のおくみどりと比較すると、山麓園で取り扱ってきたお茶では、おくゆたかの方が旨味の厚さを感じやすく、後味には爽やかさがありました。

ただし、味は品種だけで決まるものではありません。産地、被覆、摘採時期、蒸し方、火入れによっても印象は変わります。

おくゆたかは、こんな方におすすめ

  • 渋みよりも旨味を重視してお茶を選びたい方
  • さえみどりとは異なる、重厚な旨味を楽しみたい方
  • やぶきた以外の品種茶を飲み比べたい方
  • 後味が重く残りすぎないお茶を探している方
  • 知名度よりも実際の味でお茶を選びたい方

反対に、鮮やかな緑色を最優先する方や、分かりやすい甘味を求める方には、さえみどりやあさつゆの方が合う場合があります。

おくゆたかのおいしい淹れ方

おくゆたかの旨味を楽しむには、熱湯ではなく、70℃前後のお湯で淹れるのがおすすめです。

茶葉5~6g
湯量約180ml
湯温65~75℃
抽出時間約60秒

旨味を濃く引き出したい場合は、65~70℃程度まで湯温を下げ、少し長めに抽出します。

香りと爽やかな後味を楽しみたい場合は、75~80℃程度のお湯を使い、抽出時間を少し短くしてください。

深蒸し仕上げの場合は茶葉が細かいため、長く抽出しすぎると味が強くなります。急須の中にお湯を残さず、最後の一滴まで注ぎ切ることも大切です。

山麓園のおくゆたか

山麓園では、鹿児島県産のおくゆたかを品種別の煎茶として販売しています。

知名度の高い品種ではありませんが、適度な重厚感のある旨味と、飲んだ後のすっきりした味わいを楽しめます。

まとめ|派手さはないが、旨味で選ぶなら面白い品種

おくゆたかは、ゆたかみどりを親に持つ、中晩生の緑茶品種です。

芳醇な香り、重厚な旨味、比較的穏やかな渋み、すっきりした後味を持ちます。

佐賀県の被覆蒸し製玉緑茶を対象にした研究では、比較した主要6品種の中で、総アミノ酸量とテアニン量が最も多い結果となりました。

一方、茶葉の緑色は、さえみどりやあさつゆほど突出していません。

そのため、おくゆたかは、写真や品種名の知名度だけでは魅力が伝わりにくい品種かもしれません。

しかし、実際に飲んでみると、旨味の厚さと後味のよさがあります。いろいろな品種を扱ってきた立場からすると、もっと味で評価されてもよい、隠れた実力派品種だと感じています。

目立つ品種ではありませんが、知名度ではなく、実際のおいしさでお茶を選びたい方に、ぜひ一度飲んでいただきたい品種です。


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参考資料


執筆・監修:株式会社山麓園 代表取締役 甲斐宣史
日本茶・健康茶の仕入れ、製造、火入れ、合組、粉砕、商品開発に携わっています。産地や品種名だけでなく、実際に茶葉を飲み、味、香り、色、価格のバランスを確認しながら商品を選定しています。

※品種の味や成分は、産地、年度、茶期、摘採時期、被覆方法、施肥、製造方法によって変わります。掲載した成分値は、佐賀県茶業試験場が一定条件で抽出したサンプルを分析した結果であり、すべてのおくゆたかに同じ数値を保証するものではありません。

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