「せいめい」は、抹茶や粉末茶への加工を想定して育成された、比較的新しい茶品種です。清茗はこの品種の漢字表記になります。
農研機構の品種紹介では、鮮やかな緑色、強い旨味、少ない渋み、被覆栽培での収量性などが高く評価されています。
では、実際に熊本県で栽培された「せいめい」は、どのようなお茶になるのでしょうか。
山麓園では、これまでに被覆栽培された「せいめい」を、深蒸し煎茶と碾茶の両方で確認してきました。
深蒸し煎茶では、鮮やかな水色と癖のない飲みやすさが印象に残りました。一方、確認した一部の茶葉では、旨味や飲んだ後の余韻に、もう少し奥行きが欲しいとも感じました。
ところが、碾茶に加工すると印象が変わります。色がよく、味のバランスも整い、抹茶にしたときの香りにも品種としての高い可能性を感じました。
成分検査では、山麓園が同時期に確認した他品種より、評価スコアが低いサンプルもありました。それでも、総合的に見ると、せいめいは今後の熊本抹茶において、最も期待している品種の一つです。
色、飲みやすさ、抹茶にしたときの香りとバランスには高い可能性を感じる。一方、現時点では成分値や味の奥行きに、まだ判断しきれない部分もある。それを含めて、今後を追い続けたい新品種です。
せいめいは、農研機構が「ふうしゅん」を母親、「さえみどり」を父親として交配し、育成した緑茶用品種です。
生育が旺盛で収量の多い「ふうしゅん」と、鮮やかな色と高い製茶品質を持つ「さえみどり」の長所を組み合わせることを目的として育成されました。
1992年に交配され、多年にわたる選抜と試験を経て、2017年に出願公表、2020年3月に品種登録されています。
| 品種名 | せいめい |
|---|---|
| 登録番号 | 第27874号 |
| 登録年月日 | 2020年3月30日 |
| 交配 | ふうしゅん × さえみどり |
| 旧系統名 | 枕崎32号 |
| 早晩性 | やや早生 |
| 主な用途 | 抹茶、粉末茶、かぶせ茶、煎茶 |
| 主な特徴 | 鮮やかな色、被覆適性、多収性、強い旨味、比較的少ない渋み |
農研機構によると、名前は「清らかなお茶」を意味する「清茗」に由来します。新芽の緑色が美しく、製茶品質に優れることから、「清」の字と、お茶を表す「茗」の字を組み合わせて命名されました。
せいめいは、一般的な煎茶用品種としてだけでなく、被覆栽培を行う抹茶・粉末茶向けの品種として開発されました。
抹茶の原料となる碾茶を作る際は、摘採前に茶園を被覆し、日光を遮ります。被覆によって茶葉の緑色を濃くし、渋みに関係するカテキンの増加を抑えながら、旨味に関係するアミノ酸を残しやすくします。
しかし、被覆栽培は茶樹にとって負担にもなります。品種によっては、被覆すると芽の生育が弱くなったり、収量や品質が安定しなかったりすることがあります。
せいめいは、被覆条件でも比較的生育がよく、鮮やかな葉色と収量を確保しやすいことが大きな特徴です。
農研機構の試験では、10年生の茶樹を対象に、一番茶を遮光率85%で15日間被覆したところ、せいめいは、やぶきたやさえみどりと比べて収量と製茶品質が高く評価されています。
粉末茶に加工した場合も、やぶきたより鮮やかな緑色になることが確認されています。
ここからは、公的な品種資料ではなく、山麓園が熊本県産のせいめいを実際に見て、飲んだ感想です。
これまで確認してきた被覆栽培の深蒸し煎茶は、全体として水色に優れたものが多いと感じました。
深蒸しによって茶葉が細かくなり、被覆した葉の緑色が抽出液にしっかり現れます。見た目は明るく、鮮やかで、商品として非常に分かりやすい長所があります。
味わいは癖が少なく、強い品種香や刺激的な渋みが前面に出にくいため、非常に飲みやすいお茶です。
品種茶に慣れていない方にもすすめやすく、幅広い人に受け入れられる味だと思います。
水色や飲みやすさに優れる一方、山麓園がこれまで確認した一部のせいめいでは、旨味の厚さや飲み込んだ後の余韻に、やや物足りなさも感じました。
口に含んだ瞬間の味はきれいにまとまっています。しかし、旨味が何層にも重なるような奥行きや、飲んだ後に長く残る香味については、今後さらに確認したい部分があります。
ただし、これは「せいめいという品種は味が薄い」という結論ではありません。
熊本県内で栽培されているせいめいには、改植されてから年数の浅い茶園もあります。山麓園が確認した茶葉にも、比較的若い茶樹から収穫されたものが含まれています。
幼木であることが味の奥行きに影響したのか、被覆期間、施肥、摘採時期、製茶条件によるものなのか、現時点では判断できません。
サンプル数も、品種全体を評価できるほど多くはありません。そのため、現時点の感想を品種全体の評価として断定しないことが重要です。
煎茶で感じた印象に対して、碾茶に加工したせいめいには、より大きな可能性を感じました。
まず、色がよく、抹茶にしたときにも明るく清らかな緑色が出ます。
味は、一部分だけが極端に強いのではなく、旨味、渋み、苦味のバランスが整っています。癖が少ないという煎茶での特徴も、抹茶にすると使いやすさにつながります。
さらに、碾茶を粉砕した際には、抹茶らしい香りにも高い可能性を感じました。
色だけがよく、香りや味が弱い粉末ではありません。飲用、ラテ、製菓など、用途に応じて仕上げや配合を調整できる、総合力のある抹茶原料になり得ると考えています。
山麓園では、抹茶原料を味や色だけで判断せず、全窒素、遊離アミノ酸、テアニン、タンニン、繊維などの成分検査も行っています。
これまでに確認したせいめいの中には、山麓園が同時期に検査した他品種と比べて、AFスコアが低いサンプルがありました。
AFスコアは、遊離アミノ酸と繊維のバランスから、茶葉の若さや旨味成分の充実度を判断するための参考指標です。
農研機構の資料では、せいめいは「旨味が強く、渋みが少ない」と評価されています。そのため、山麓園が確認した成分値は、当初の予想より低い結果でした。
この違いには、次のような条件が影響している可能性があります。
農研機構が公表している被覆試験は、10年生の茶樹を同一圃場で比較したものです。一方、山麓園が確認した熊本県産原料には、改植後の若い茶園の茶葉も含まれます。
条件が異なるため、公的な品種評価と山麓園の検査結果を単純に比べることはできません。
AFスコアや遊離アミノ酸量は、抹茶原料を評価するうえで有用な情報です。しかし、数値だけで抹茶の総合品質が決まるわけではありません。
抹茶には、次のような要素も重要です。
せいめいは、山麓園が確認したサンプルでは、成分スコアだけを見ると他品種より低いものがありました。
一方、色、香り、味のバランス、飲みやすさという官能面では、高い可能性を感じています。
成分値と実際に飲んだ印象が完全に一致しないことも、お茶の面白いところです。
山麓園が熊本県内の生産者から話を聞く範囲でも、せいめいを新たに植える農家や、古い茶園からせいめいへ改植する農家が見られるようになっています。
せいめいは、やや早生で収量性があり、被覆栽培への適性も高いとされています。
煎茶需要が縮小する一方で、国内外の抹茶需要が増えている現在、生産者が将来の碾茶・抹茶需要を考えて、せいめいを選ぶことには合理性があります。
ただし、新植・改植された茶園が本格的な成園になるまでには年数が必要です。
現時点で流通している若い茶園のせいめいだけを見て、この品種の最終的な実力を判断するのは早いと思います。
ここまで、旨味や余韻の奥行きが不足していると感じたことや、成分スコアが他品種より低かったことを書きました。
これだけを読むと、せいめいへの評価が低いように聞こえるかもしれません。
しかし、山麓園の評価は逆です。
せいめいは、現時点で完成された評価を下す品種というより、これから茶樹の成長、栽培技術、被覆方法、碾茶加工技術がそろうことで、さらに品質が高まる可能性を持つ品種だと考えています。
水色のよさ、癖のない飲みやすさ、碾茶にしたときの色と香り、抹茶としてのバランスには、他の品種にはない魅力があります。
成分値についても、今後、樹齢の異なる茶園や複数の生産者、異なる被覆条件の原料を検査することで、品種本来の傾向が見えてくるはずです。
せいめいは、熊本抹茶の将来を考えるうえで、今後最も期待している品種の一つです。
被覆されたせいめいの深蒸し煎茶は、水色と飲みやすさを生かす淹れ方がおすすめです。
| 茶葉 | 約5g |
|---|---|
| 湯量 | 約180ml |
| 湯温 | 65~75℃ |
| 抽出時間 | 約40~60秒 |
旨味を重視する場合は65~70℃程度、爽やかな香りとすっきりした味を楽しむ場合は75℃前後で淹れます。
深蒸し茶は茶葉が細かく、味と色が出やすいため、長く抽出しすぎないことが大切です。急須にお湯を残さず、最後の一滴まで注ぎ切ってください。
せいめいは、ふうしゅんとさえみどりから育成された、被覆栽培と抹茶・粉末茶への加工を想定した新品種です。
農研機構の試験では、やぶきたやさえみどりと比べて、被覆栽培での収量、色沢、滋味が高く評価されています。
山麓園が熊本県産のせいめいを確認したところ、被覆深蒸し煎茶では、水色がよく、癖が少なく、非常に飲みやすいお茶でした。
その一方で、一部のサンプルでは、旨味や余韻の奥行きと成分スコアに、今後さらに確認したい部分がありました。
碾茶に加工した場合は、色、香り、味のバランスがよく、抹茶原料として高い可能性を感じます。
現在、熊本県内でもせいめいへの改植が進みつつあります。若い茶園が成長し、生産者の栽培経験と碾茶加工技術が蓄積されれば、評価はさらに変わっていくでしょう。
良い点だけを並べれば、品種の宣伝記事にはなります。しかし、まだ分からない部分も含めて継続的に観察することが、新品種を評価するうえでは重要です。
せいめいは、すでに完成された有名品種ではありません。だからこそ、今後どのようなお茶に育っていくのか、山麓園が注目し続けたい品種です。
執筆・監修:株式会社山麓園 代表取締役 甲斐宣史
日本茶・健康茶の仕入れ、製造、火入れ、合組、粉砕、商品開発に携わっています。熊本県内の生産者から品種別の茶葉を仕入れ、煎茶、玉緑茶、碾茶、抹茶への加工後の味、色、香りと成分値を確認しています。
※山麓園による味や香りの評価、熊本県内での改植状況は、取引先の生産者から聞いた内容と、実際に確認した茶葉に基づく見解です。県全体の栽培面積やすべてのせいめいを代表するものではありません。成分値は茶園、樹齢、被覆、施肥、摘採時期、製造条件によって変化します。