近年、抹茶の価格高騰と供給不足が大きな問題になっています。海外での抹茶人気、抹茶ラテやスイーツ需要の拡大、気候変動による収量への影響などが重なり、抹茶原料である碾茶の確保は年々難しくなっています。Reutersも、世界的な抹茶需要の増加や猛暑による碾茶収量への影響、京都での入札価格上昇などを報じています。
これまで「日本の抹茶」といえば、宇治、京都、八女、鹿児島などの有名産地が中心でした。もちろん、これらの産地の品質やブランド価値は非常に高いものです。しかし、業務用やラテ用、製菓用として継続的に抹茶を使用する場合、価格や供給の安定性も重要になります。
そのような中で、今後注目される可能性があるのが、これまで抹茶産地として大きく知られてこなかった地域です。山麓園が特に注目しているのが、地元である熊本の茶産地です。
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熊本抹茶という言葉を聞くと、「新しい産地なのでは」と感じる方もいるかもしれません。しかし、熊本は決して新しい茶産地ではありません。
熊本県は、全国第7位の茶栽培面積を持つ有数の茶産地であり、煎茶、蒸し製玉緑茶、釜炒り茶などが主に生産されています。特に玉緑茶については、全国生産量の4分の1を占めると紹介されています。
また、熊本には紅茶の歴史もあります。1875年、明治政府は熊本県山鹿市に紅茶製造を教えるための「紅茶伝習所」を設置しました。これは日本の紅茶の第一歩として紹介されています。
つまり熊本は、抹茶産地としてはこれから注目される地域でありながら、茶産地としては長い歴史と技術的土壌を持つ地域なのです。
熊本茶の特徴の一つに、品質を評価する独自色の強い仕組みがあります。
JA熊本経済連茶業センターでは、「くまもと格付認証茶」として五つ星、三つ星の茶が紹介されています。これは厳しい審査基準をクリアした茶葉のみが認められる仕組みで、熊本茶の品質向上を支える制度の一つです。
さらに熊本県の資料では、県経済連茶生産流通協議会が品種、栽培方法、荒茶成分などで独自の基準を設け、その基準をクリアした茶が格付認証茶として扱われていることが確認できます。
このように、熊本では単に見た目や味の印象だけでなく、成分や栽培方法も含めて品質を考える文化が育ってきました。これは、抹茶原料を作るうえでも非常に重要な素地になります。
抹茶に求められる品質は、用途によって異なります。
点てて飲む抹茶であれば、旨味、香り、口当たり、渋みの少なさが重要です。ラテ用であれば、色の良さ、ミルクに負けない味の強さ、コストパフォーマンスも重要になります。製菓用であれば、色、香り、苦渋味、粉末の細かさ、価格のバランスが求められます。
その中で、茶の成分分析は大きな意味を持ちます。茶の品質評価では、全窒素、遊離アミノ酸、テアニン、タンニン、繊維、水分などが重要な指標になります。たとえば、全窒素は緑茶の官能審査結果と高い正の相関があり、品質評価上の重要な指標とされています。また、遊離アミノ酸は茶のうま味に関係すると説明されています。
茶品種に関する研究でも、一番茶において全窒素、遊離アミノ酸、テアニンは茶の滋味に関係する成分として扱われ、タンニンは渋味成分として示されています。
山麓園では、熊本抹茶の取り組みにおいて、一番茶全ロットおよび二番茶の一部について、成分検査を行っています。確認している項目は、水分、全窒素、遊離アミノ酸、テアニン、繊維、タンニン、カフェイン、ビタミンC、AFスコアなどです。
もちろん、成分値だけでお茶のすべてが決まるわけではありません。香り、色、粉末の質感、飲んだ時の印象など、官能的な評価も重要です。しかし、成分検査を行うことで「なぜこのお茶は旨味が強いのか」「なぜ渋みが出やすいのか」「どの品種や栽培方法が抹茶に向いているのか」を考えやすくなります。
熊本では、格付認証茶制度を通じて、成分や品質を意識する土壌が農家の中にも浸透してきました。このことは、旨味が強く、渋みの少ない抹茶原料を作る方向性と非常に相性がよいと考えています。
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熊本茶は品質面で魅力がある一方、全国的な知名度では、静岡、鹿児島、宇治、八女などの有名産地に比べて目立ちにくい存在でした。
その理由の一つが、熊本が玉緑茶の産地であることです。
玉緑茶は、茶葉が丸まった形から「ぐり茶」とも呼ばれるお茶です。農林水産省も、蒸し製玉緑茶について、茶葉が丸まった形から釜炒り製玉緑茶とともに「ぐり茶」と呼ばれると説明しています。
一方、一般的な煎茶は細くまっすぐな形状に仕上げられます。玉緑茶は茶葉の形が異なるため、煎茶中心の他産地のお茶と配合すると、見た目の統一感が出にくい場合があります。
そのため、熊本茶は県外の大きな流通に乗りにくく、県内消費や地域内流通が中心になりやすい面がありました。結果として、品質は高くても全国的な知名度が上がりにくい、「知られざる良質茶産地」として残ってきたのだと思います。
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近年、茶葉全体の相場は大きく上昇しています。特に抹茶原料や高品質な一番茶は、需要増加の影響を強く受けています。
しかし、熊本茶はこれまで県外流通が比較的少なかったため、有名産地に比べると、知名度によるブランド価格が大きく乗りにくい面がありました。これは見方を変えれば、品質に対して価格面の余地が残っていたということでもあります。
もちろん、熊本茶も今後は価格が上がっていく可能性があります。実際、現場感覚としても、2026年以降、県外の茶業者が熊本の農家と直接取引を模索する動きは増えているように感じます。
それでも、熊本は「品質を作る土壌がありながら、抹茶産地としてはまだ大きく知られていない地域」です。抹茶高騰時代において、この点は大きな可能性になると考えています。
熊本は地理的にも面白い位置にあります。
北には高級茶産地として知られる福岡県八女、南には国内最大級の茶産地である鹿児島があります。さらに佐賀、長崎、宮崎、大分といった九州各地の茶産地ともつながりやすい位置にあります。
熊本は玉緑茶や釜炒り茶の文化を持ちながら、周辺には煎茶、深蒸し茶、玉緑茶、釜炒り茶、碾茶など、さまざまな茶づくりの技術が存在しています。こうした九州全体の茶産地との交流の中で、今後、熊本抹茶の技術や品質もさらに高まっていく可能性があります。
熊本には「わさもん」という言葉があります。新しいもの好き、新しいことに挑戦する気質を表す言葉です。
熊本の茶農家にも、新しい品種や珍しい品種に挑戦する方がいます。抹茶ラテや製菓用として使いやすい品種、色が出やすい品種、旨味が出やすい品種など、今後の需要に合った茶づくりが進めば、熊本抹茶にはさらに大きな可能性が出てきます。
抹茶づくりは、単に茶葉を粉にすればよいものではありません。品種、被覆期間、摘採時期、荒茶加工、火入れ、粉砕、保管、用途設計まで、一連の流れが重要です。
山麓園では、熊本の農家と協力し、品種や栽培方法、成分値、実際の味や色を確認しながら、業務用やラテ用にも使いやすい熊本抹茶づくりを進めています。
熊本抹茶は、宇治抹茶や八女抹茶の単なる代替品ではありません。
有名産地には有名産地の歴史、ブランド、品質があります。それを否定する必要はありません。しかし、抹茶需要が世界的に広がり、価格や供給が不安定になっている今、用途に応じて新しい産地を選ぶ考え方も必要になってきています。
特に、抹茶ラテ、製菓、食品加工、カフェメニュー、業務用原料では、必ずしも最高級の茶道用抹茶だけが求められるわけではありません。
必要なのは、色、味、香り、粉末品質、価格、供給、使いやすさのバランスです。
その意味で、熊本抹茶は「有名産地ではないから弱い」のではなく、有名産地ではないからこそ、これから伸びる余地のある新しい選択肢だと考えています。
熊本は、茶産地としての歴史と実績を持ちながら、抹茶産地としてはまだ大きく知られていない地域です。
全国有数の茶栽培面積を持ち、玉緑茶を中心に独自の茶文化を育ててきた熊本。さらに、格付認証茶制度や成分検査を通じて、品質を数値と官能の両面から考える土壌もあります。
一方で、玉緑茶産地であったことから県外流通が限られ、知名度が上がりにくかった面もあります。しかし、そのことが結果として、品質に対して価格面の余地を残してきたとも言えます。
抹茶価格が高騰し、有名産地だけに頼ることが難しくなっている今、熊本抹茶は新しい日本産抹茶の選択肢として注目される可能性があります。
山麓園では、地元熊本の茶農家と協力し、成分検査や実際の使用感を確認しながら、ラテ、製菓、業務用にも使いやすい熊本抹茶づくりに取り組んでいます。
「有名産地ではないからこそ、まだ知られていない価値がある。」
熊本抹茶は、これからの抹茶高騰時代において、そうした新しい可能性を持つ産地だと考えています。
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