「さえあかり」は、高い品質と、栽培のしやすさを両立することを目指して育成された茶品種です。
親には、高品質品種として知られる「さえみどり」が使われています。そのため、鮮やかな緑色、旨味、渋味の少なさなど、さえみどりに近い特徴を持っています。
一方で、さえあかりは多収で樹勢が強く、主要な病気にも比較的強いため、有機栽培や農薬を減らした栽培にも適しています。品質だけでなく、今後の茶生産を支える実用性の高い品種として注目されています。
ただし、山麓園がこれまで煎茶として見てきた範囲では、最高品質のさえみどりの方が、香りの上品さや旨味の奥行きでは一段上と感じることがあります。また、煎茶では品種特有の香りについて好みが分かれる場合があります。
この記事では、リーフティーとしてのさえあかりの特徴を中心に、有機栽培への適性、さえみどりとの違い、碾茶・抹茶原料としての可能性まで詳しく解説します。
| 主な長所 | 多収、樹勢が強い、主要病害に比較的強い、鮮やかな色、旨味、被覆適性 |
|---|---|
| 味わい | 旨味があり、渋味は比較的穏やか。さえみどりに近い高品質な方向性 |
| 香り | 煎茶では品種香が目立ち、好みが分かれる場合がある |
| 向いている茶種 | 煎茶、深蒸し茶、かぶせ茶、碾茶、抹茶、有機茶 |
| 栽培面の特徴 | 多収で、炭疽病・輪斑病などへの抵抗性が比較的高い |
| 弱点 | 香りの好みが分かれる、最高品質のさえみどりには上品さで及ばない場合がある |
山麓園の見解:さえあかりは「さえみどりを完全に超えた品種」というより、さえみどりに近い品質を持ちながら、収量、病害抵抗性、有機適性を高めた実用性の高い品種だと考えています。
さえあかりは、国の茶研究機関で育成された、やや早生の緑茶用品種です。
母親は「Z1」、父親は「さえみどり」です。
1989年に交配され、その後、収量、耐病性、製茶品質などの試験を経て、2012年に品種登録されました。
摘採期は、一般にやぶきたより3~4日ほど早く、さえみどりより3~4日ほど遅いとされています。早すぎず遅すぎないため、早生品種を導入したい生産者にとっても使いやすい位置にあります。
さえあかりは、親であるさえみどりの影響を受け、茶葉や水色が明るい緑色になりやすい品種です。
適期に摘採し、適切に蒸して製造された一番茶では、外観の色沢がよく、急須で淹れた水色も鮮やかです。深蒸し茶や被覆茶にすると、さらに緑色が濃く見える場合があります。
色の良さは、販売面でも分かりやすい長所です。お茶を淹れたときに緑色がはっきり出るため、消費者にも品質の違いが伝わりやすくなります。
味わいは、さえみどりに近く、旨味があり、渋味や苦味が前に出にくい傾向があります。
一番茶を低めの温度で淹れると、やわらかな甘味と旨味を感じやすく、口当たりも比較的なめらかです。強い渋味を楽しむというより、色と旨味を中心に味わう品種です。
成分面でも、アミノ酸が多く、タンニンが比較的少ない品種として評価されています。これは、実際の飲みやすさや旨味の出やすさとも方向性が一致しています。
さえあかりを煎茶として評価するとき、最も意見が分かれやすいのが香りです。
さえみどりにも独特の品種香がありますが、さえあかりでも同じ系統の香りを感じる場合があります。これを華やかで個性的と評価する人もいれば、少し癖があると感じる人もいます。
山麓園がこれまで見てきた範囲でも、味や水色は高く評価されながら、香りについては好みが分かれることがありました。
ただし、香りは品種だけでなく、摘採時期、蒸し度、乾燥、火入れ、保存状態でも大きく変わります。さえあかり特有の香りを生かすのか、火入れや合組で整えるのかによって、商品としての印象も変わります。
公的な試験では、さえあかりの一番茶品質は、さえみどりと同等と評価されています。
実際に、さえあかりは色、旨味、渋味の少なさなど、さえみどりに近い優れた特徴を持っています。収量や耐病性まで含めれば、生産者にとって非常に魅力的な品種です。
一方、山麓園がこれまで扱った茶葉の官能評価では、最高品質のさえみどりの方が、香りの上品さ、旨味の厚み、余韻、全体の完成度で優れていると感じることが多くありました。
これは、さえあかりの品質が低いという意味ではありません。比較対象となるさえみどり自体が、非常に高い品質の基準となる品種だからです。
| 比較項目 | さえあかり | さえみどり |
|---|---|---|
| 水色・色沢 | 鮮やかで高水準 | 非常に鮮やかで、最高品質では特に優れる |
| 旨味 | 多く、飲みやすい | 上品で厚みがあり、余韻に優れることが多い |
| 香り | 品種香が目立ち、好みが分かれる場合がある | 品種香はあるが、良質茶では上品にまとまりやすい |
| 収量 | 多い | さえあかりより少ない傾向 |
| 病害抵抗性 | 主要病害に比較的強い | 栽培時に注意が必要な病害がある |
| 有機栽培適性 | 高い | 高品質だが、栽培管理の難易度は高くなりやすい |
したがって、品質だけを最優先するなら、選び抜かれたさえみどりが有利な場合があります。一方、品質、収量、病害抵抗性、有機栽培のしやすさを総合すると、さえあかりには大きな実用的価値があります。
さえあかりの大きな特徴は、高品質だけでなく、栽培面の強さを持っていることです。
さえあかりは生育が旺盛で、株張りがよく、収量も多い品種です。公的な試験では、やぶきたやさえみどりより多収と評価されています。
収量が多いことは、単に農家の収入が増えるだけでなく、品種茶や有機茶として一定量を安定供給しやすくなるという意味があります。
ただし、多収だから自動的に高品質になるわけではありません。着葉量が多すぎたり、摘採が遅れたりすると、芽が硬くなり、香味や成分値が低下する場合があります。
さえあかりは、炭疽病、輪斑病、赤焼病などへの抵抗性が比較的高い品種として育成されています。
病害に強いことは、農薬の使用回数を減らしたい場合や、有機栽培を行う場合に大きな長所です。特に輪斑病への抵抗性は、親であるZ1から受け継いだ特徴です。
一方で、すべての病気や害虫に強いわけではありません。もち病、赤焼病の発生条件、害虫などには、茶園環境に応じた管理が必要です。
「病気に強い品種」は「何もしなくても育つ品種」ではありません。農薬を減らす余地が大きく、有機栽培の難易度を下げやすい品種と考える方が適切です。
有機栽培では、使用できる農薬や肥料が制限されます。そのため、品種そのものが持つ樹勢や病害抵抗性が、慣行栽培以上に重要になります。
これらの特徴から、さえあかりは有機煎茶、有機かぶせ茶、有機碾茶・抹茶の候補として非常に魅力があります。
山麓園でも、有機栽培に向くこと、成分値が比較的高いこと、抹茶に加工した際の品質を評価し、今後積極的に扱いたい品種の一つと考えています。
さえあかりは、煎茶だけでなく、かぶせ茶や碾茶などの被覆栽培にも向く品種です。
摘採前に日光を遮ると、一般に茶葉の緑色が濃くなり、アミノ酸が保たれ、タンニンの増加が抑えられます。さえあかりはもともと色とうま味に優れるため、被覆によってその長所をさらに引き出しやすくなります。
被覆した煎茶やかぶせ茶では、露地栽培よりも渋味が穏やかになり、旨味と緑色が強くなります。品種香も、露地煎茶とは異なる印象にまとまる場合があります。
ただし、被覆期間が長ければ長いほど良いわけではありません。茶園の樹勢、天候、芽の状態を見ながら、品質と生育のバランスを取る必要があります。
さえあかりは、碾茶・抹茶原料としても有望な品種です。
抹茶用途で評価できる理由は、次のとおりです。
煎茶では香りの癖を指摘されることがありますが、山麓園が抹茶用途で見た範囲では、煎茶ほど香りが欠点として強く現れないと感じています。
被覆、碾茶乾燥、仕上げ、火入れ、粉砕を経ることで、香りが抹茶全体の旨味、苦味、粉末感と一体になり、品種香だけが目立ちにくくなるためだと考えられます。
特に、有機栽培による高品質な飲用抹茶、プレミアムな抹茶ブレンド、色とうま味を重視する商品には向いています。
さえあかりの抹茶は、色と旨味を生かした上品なラテに向きます。一方、牛乳と砂糖を多く使う大型ラテでは、さやまかおりなどの力強い品種や、用途別に設計したブレンドの方が味が残りやすい場合があります。
抹茶は、単純に高級品種を選ぶのではなく、ストレート、ラテ、製菓など、最終用途に合わせて選ぶことが重要です。
これらは欠点というより、商品設計や栽培管理で理解しておくべき特徴です。特に香りについては、煎茶、被覆茶、抹茶で評価が変わるため、最終的な茶種で確認する必要があります。
一番茶のさえあかりは、やや低めの温度で淹れると、旨味と甘味を感じやすくなります。
| 茶葉 | 5g |
|---|---|
| 湯量 | 150ml前後 |
| 湯温 | 65~75℃ |
| 抽出時間 | 約60~80秒 |
香りをすっきり楽しみたい場合は、75~80℃で短めに抽出します。旨味を重視する場合は、65~70℃まで湯温を下げ、少し長めに抽出してください。
深蒸し茶の場合は、茶葉が細かいため、抽出時間を45~60秒程度に短くすると、濃くなりすぎにくくなります。
水500mlに茶葉8~10gを入れ、冷蔵庫で2~3時間抽出します。低温では渋味が出にくいため、さえあかりの緑色とやわらかな旨味を楽しみやすくなります。
さえあかりは、Z1とさえみどりを親に持ち、高い品質、多収性、樹勢、病害抵抗性を兼ね備えた品種です。
単純に「さえみどりより優れているか」という見方ではなく、品質と生産性、有機適性をどこまで両立できるかという視点で評価すべき品種です。
今後、有機茶や有機抹茶の需要が増えるほど、さえあかりの価値はさらに高まる可能性があります。山麓園でも、今後積極的に取り扱っていきたい品種の一つです。
執筆・監修:株式会社山麓園 代表取締役 甲斐宣史。記載した官能評価や成分値に関する見解には、山麓園がこれまで取り扱い、評価した茶葉・ロットに基づく内容が含まれます。すべてのさえあかりに同じ香味、成分値、収量、病害抵抗性を保証するものではありません。