日本各地で作られる「和紅茶」は、渋味が比較的穏やかで、ストレートでも飲みやすい紅茶として知られるようになりました。
しかし、2025年から2026年にかけて、日本の茶生産を取り巻く環境は大きく変わっています。
世界的な抹茶ブームによって、抹茶の原料となる「てん茶」が高値で取引されるようになりました。さらに、煎茶や番茶も品薄となり、これまでより高い価格で販売されています。
同じ茶園の茶葉を、煎茶、てん茶、紅茶のどれに加工するかは、生産者にとって重要な経営判断です。
紅茶よりも高い価格で販売でき、買い手も確保しやすい茶種があるなら、生産者がそちらを優先するのは合理的です。
その結果、今後は和紅茶の原料が集まりにくくなり、生産量の減少や価格上昇につながる可能性があると、茶の仕入れ・製造・販売を行う立場から考えています。
先に結論
和紅茶の味、ダージリンや海外紅茶との違い、品種や栽培方法については、次の記事で詳しく解説しています。
和紅茶とは?どんな味?ダージリンや海外紅茶との違いを茶業者が解説
全国茶生産団体連合会の令和6年茶種別生産実績によると、2024年の国内荒茶生産量は合計73,454トンでした。
そのうち、紅茶はわずか288.7トンです。
2024年の国内茶生産量
全茶種:73,454トン
紅茶:288.7トン
紅茶は全体の約0.4%
日本では緑茶が茶生産の中心であり、国産紅茶はまだ非常に小さな茶種です。
少量生産の農家や工場も多いため、数軒の生産者が紅茶の製造をやめたり、別の茶種へ切り替えたりするだけでも、全国の生産量に影響する可能性があります。
緑茶、ウーロン茶、紅茶の分類や製造方法の違いについては、次の記事でも詳しく紹介しています。
2024年の紅茶生産量288.7トンのうち、鹿児島県は186トンを生産しています。
全国生産量の約64%に相当し、鹿児島県が国産紅茶の供給を大きく支えていることが分かります。
| 2024年 | 紅茶生産量 | 全国に占める割合 |
|---|---|---|
| 全国 | 288.7トン | 100% |
| 鹿児島県 | 186トン | 約64% |
鹿児島県は、平坦で機械化しやすい茶園が多く、一番茶から二番茶、三番茶、秋冬番茶まで幅広く生産できる国内最大級の茶産地です。
緑茶だけでなく、紅茶や抹茶原料のてん茶など、多様な茶種を生産できることが強みです。
しかし、多様な茶種を作れるということは、逆にいえば、市場価格や需要に応じて生産する茶種を変更しやすいということでもあります。
鹿児島県を含む日本茶全体の最新の生産状況は、次の記事で詳しく解説しています。
2026年の茶の生産量はどうなる?鹿児島が日本一、日本茶の産地構造の変化を解説
鹿児島県が公表した茶業振興対策資料には、和紅茶の今後を考えるうえで、非常に注目すべき数字があります。
2024年から2025年にかけて、鹿児島県の荒茶生産量全体は27,000トンから30,000トンへ増えました。
その中で、抹茶の原料となるてん茶は3,410トンから4,610トンへ増え、前年比135%となっています。
一方、紅茶は186トンから158トンへ減少し、前年比85%となりました。
| 鹿児島県 | 2024年 | 2025年 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 荒茶全体 | 27,000トン | 30,000トン | 111% |
| てん茶 | 3,410トン | 4,610トン | 135% |
| 紅茶 | 186トン | 158トン | 85% |
鹿児島県全体の茶生産量が減ったために、紅茶も減ったのではありません。
茶の生産量全体と、てん茶の生産量が増える中で、紅茶は減っていることが重要です。
1年だけの数字で長期的な傾向を断定することはできませんが、抹茶ブームによる茶種間の生産配分の変化が、すでに数字に表れ始めている可能性があります。
統計を見る際の注意
茶種別の生産量は、調査主体、集計時期、確認方法などによって数値が異なる場合があります。本記事では、全国の2024年実績には全国茶生産団体連合会、鹿児島県の2024年と2025年の比較には鹿児島県の茶業振興対策資料を使用しています。
鹿児島県でてん茶生産が拡大してきた経緯については、次の記事をご覧ください。
抹茶の原料であるてん茶の生産量1位は鹿児島県|今後も拡大が見込まれる理由
抹茶と紅茶は、まったく別の植物から作られるわけではありません。
どちらも基本的には、同じチャの木から収穫した茶葉を使います。
品種、栽培方法、摘採時期、収穫後の製造方法を変えることで、煎茶、てん茶、紅茶など、異なる茶種になります。
しかし、同じ茶葉を同時に煎茶、てん茶、紅茶のすべてへ加工することはできません。
限られた茶園と茶葉を、どの用途へ振り分けるのかという問題になります。
長年、二番茶や夏秋期の茶葉は、一番茶に比べて価格が低くなりやすい傾向がありました。
そのため、価格の低い茶葉を紅茶へ加工し、新しい付加価値を生み出すことには大きな意味がありました。
しかし、2025年から2026年は状況が変わっています。
世界的な抹茶需要によっててん茶が高騰し、一般的な煎茶や、これまで安価だった番茶原料まで品薄となりました。
紅茶へ加工しなくても、緑茶や抹茶原料として従来より高い価格で販売できるのであれば、生産者がそちらを優先するのは自然な判断です。
2026年のお茶の価格高騰と抹茶ブームの関係については、次の記事で一般の消費者にも分かりやすく説明しています。
「高級な一番茶だけが抹茶へ回り、二番茶はこれまでどおり紅茶にできるのでは」と考える方もいるかもしれません。
しかし、実際には二番茶、三番茶、四番茶、秋冬番茶まで価格が上昇しています。
飲料用原料、粉末茶、簡易てん茶など、夏から秋に収穫する茶葉にも複数の需要があります。
これまで紅茶へ使われていた茶葉にも、緑茶原料として買い手が付くようになれば、紅茶用原料の確保はさらに難しくなります。
2025年から2026年に起きている茶市場の価格変化については、次の記事で実際の市場データを紹介しています。
2025年~2026年、煎茶価格が急騰|茶市場で起きている変化
生葉を緑茶工場へ持ち込み、煎茶や番茶として販売する場合と比べて、紅茶の製造には異なる工程と技術が必要です。
酸化発酵の進み方は、気温、湿度、茶葉の水分量、芽の成熟度などによって毎回異なります。
同じ時間、同じ温度で製造しても、毎回同じ紅茶になるとは限りません。
良質な紅茶を安定して作るには、設備だけでなく、製造者の経験と判断が必要です。
さらに、出来上がった紅茶を販売するための販路や在庫管理も必要になります。
緑茶原料としてすぐに高値で販売できる一方、紅茶は手間をかけて製造し、売れるまで在庫を持たなければならないのであれば、紅茶を作る経営上の利点は小さくなります。
和紅茶の栽培方法、品種、酸化発酵の難しさについては、次の記事で詳しく解説しています。
今後、和紅茶の小売価格がどの程度上がるのかを正確に予測することはできません。
しかし、茶業者の立場から見ると、従来価格を維持することは難しく、価格上昇は避けにくいと考えています。
紅茶に使用できる茶葉は、煎茶、番茶、粉末茶、てん茶など、ほかの用途にも使用できます。
他の用途で高値が付けば、紅茶用茶葉を確保するためにも、それに見合う価格を提示する必要があります。
萎凋、揉捻、酸化発酵、乾燥、選別には、時間、設備、人手、電気代などが必要です。
特に少量生産の和紅茶は、大規模な海外産紅茶と同じコスト構造では作れません。
2024年の国内紅茶生産量は、全茶種の約0.4%です。
小さな市場であるため、原料、資材、加工費が上がっても、大量生産によって吸収することが難しい茶種です。
生産者へ安い価格だけを求め続ければ、より収益性の高い煎茶やてん茶へ生産が移ります。
和紅茶の生産を維持するには、紅茶を作る手間と技術に見合った価格で取引する必要があります。
価格が上がることは、生産を残すためにも必要
和紅茶の値上がりは消費者にとって負担ですが、適正な価格が付かなければ、生産者が紅茶を作り続ける理由そのものが失われます。価格上昇は単なる品薄の結果だけでなく、和紅茶生産を維持するための条件でもあります。
2025年の全国茶種別生産量については、現時点では全国の詳細な確定値が十分に公表されていません。
したがって、「全国の和紅茶生産量はすでに減少傾向に入った」と断定することはできません。
また、新たに紅茶生産へ取り組む農家や、地域ブランドとして和紅茶を育てようとする産地もあります。
そのため、一部地域で紅茶が減る一方、新しい地域で生産が始まり、全国合計では横ばいになる可能性もあります。
しかし、次の条件を考えると、少なくとも従来のような価格で、安定した量の和紅茶を調達することは難しくなる可能性が高いと考えています。
すべての和紅茶が同じように減るとは限りません。
特定の品種、生産者、産地、製造方法に価値が認められ、高価格でも購入される和紅茶は、生産を維持しやすいと考えられます。
一方、大容量で低価格の商品は、原料や加工費の上昇を価格へ反映しにくく、供給を維持することが難しくなる可能性があります。
今後は、和紅茶も一律に安い商品ではなく、日常用と、生産者や品種を楽しむ高品質品に分かれていくことが予想されます。
和紅茶は、やぶきたなどの緑茶用品種からも作ることができます。
一方、べにふうき、べにひかり、べにほまれなど、紅茶への加工に適した品種を使用すると、紅茶らしい香り、コク、水色を引き出しやすくなります。
ただし、日本の茶園の多くは緑茶生産を目的として作られてきました。
紅茶用品種の栽培面積は限られており、新たに植えても安定した収穫ができるまでには数年かかります。
今後、高品質な和紅茶の生産を増やすためには、紅茶用品種の植栽、紅茶向けの茶園管理、製造設備、販路を一体で整える必要があります。
べにふうきなど、紅茶や半発酵茶に向く品種については、次の記事で比較しています。
日本紅茶協会のデータによると、2024年の紅茶輸入量は約15,039トンでした。
国内の紅茶生産量288.7トンと単純に比較すると、輸入量は約52倍あります。
そのため、国産紅茶の生産量が減っても、日本国内から紅茶そのものがなくなるわけではありません。
しかし、輸入紅茶と和紅茶は、完全に同じ商品ではありません。
和紅茶を選ぶ人は、単に紅茶なら何でもよいのではなく、日本産ならではの味や背景に価値を感じています。
そのため、輸入紅茶が大量にあっても、特定の国産紅茶の代わりになるとは限りません。
※輸入量と国内生産量は統計の範囲や流通過程が異なるため、厳密な国内市場シェアを表す比較ではありません。市場規模の違いを理解するための参考値です。
和紅茶の生産を今後も維持するためには、生産者が紅茶を作る経済的な理由と、長期的に販売できる販路が必要です。
和紅茶を単に「緑茶より安い茶葉の活用方法」と考えるだけでは、抹茶や煎茶が高騰した際に、生産がそちらへ移ってしまいます。
今後は、紅茶専用の茶園や品種を育て、紅茶そのものに適正な価値を付けることが、国産紅茶を残すために必要になると考えています。
和紅茶そのものがなくなるとは考えていません。
新しく紅茶生産へ取り組む農家もあり、高品質な和紅茶への関心も高まっています。
ただし、産地や商品によっては生産量が減ったり、従来価格での販売が難しくなったりする可能性があります。
値上がりの時期や幅は、原料、産地、製造方法、在庫、販売者によって異なります。
ただし、原料茶葉の価格、加工費、包材費、物流費が上昇しているため、業界全体として価格上昇の圧力は強まっています。
一時的に需給が緩む可能性はありますが、茶園面積、生産者、製茶工場の減少は短期間では元に戻りません。
また、海外市場での抹茶需要が定着すれば、てん茶への生産転換も継続する可能性があります。
したがって、すぐに以前の価格へ戻るとは限りません。
既存の茶葉を紅茶へ加工するだけであれば、短期的に増産できる場合もあります。
しかし、高品質な紅茶を安定して作るには、品種、茶園管理、摘採時期、製造設備、技術、販売先を整える必要があります。
紅茶用品種を新しく植える場合は、安定して収穫できるまで数年かかります。
2024年の国内紅茶生産量は288.7トンで、日本茶全体の約0.4%にすぎません。
そのうち約64%を鹿児島県が生産しており、国産紅茶は一つの産地への依存度が高い茶種です。
さらに鹿児島県では、2025年に荒茶全体とてん茶の生産量が増えた一方、紅茶の生産量は186トンから158トンへ減少しました。
全国の和紅茶生産量が今後必ず減少すると、現時点で断定することはできません。
しかし、抹茶、煎茶、番茶など他の用途で茶葉が高値で売れる状況では、紅茶用の原料を従来と同じ価格で確保することは難しくなります。
以上を考えると、和紅茶の価格上昇は避けにくく、商品によっては生産量や流通量が減る可能性があります。
一方で、適正な価格で販売できれば、紅茶専用園や紅茶用品種への投資が進み、日本各地で新しい和紅茶が生まれる可能性もあります。
和紅茶は今、単なる余剰茶葉の活用から、産地、品種、生産者の個性を評価するお茶へ変わる転換点にあると考えています。
株式会社山麓園 代表取締役 甲斐 宣史
日本茶・健康茶の仕入れ、製造、商品開発、販売に従事。熊本県産茶、鹿児島県産茶をはじめ、各産地の茶葉を取り扱い、茶市場の価格、品種、茶期、製造方法を踏まえた商品づくりを行っています。
※本記事の将来予測は、公表されている生産統計と、茶の仕入れ・製造・販売現場の状況をもとにした茶業者としての考察です。将来の生産量や価格を保証するものではありません。