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有機栽培では農薬を使う?肥料は?実際のお茶の生産履歴で検証

「有機栽培のお茶なら、農薬も肥料も使っていない」と思われている方もいるかもしれません。

しかし、有機栽培=農薬も肥料も一切使わず、何もしない栽培方法というわけではありません。

有機JASでは、化学的に合成された肥料や農薬の使用を避けることを基本としながら、土づくりや病害虫、雑草などを一定の基準に従って管理します。また、条件を満たした肥料や農薬については使用できる場合があります。

では、実際の有機茶園ではどのような栽培が行われているのでしょうか。

今回は、山麓園の取引先である熊本県内の有機茶生産者から提供された有機JAS認証書と、2025年の実際のお茶の生産履歴を見ながら、農薬、肥料、除草などの管理内容を確認してみます。

なお、生産者や圃場を特定できないよう、公開する資料では氏名、住所、認証番号、圃場番号などの情報をマスキングしています。また、茶園写真についても今回の生産履歴とは別の有機圃場を使用しています。

熊本県内の有機茶園。生産者や圃場の特定を避けるため、今回紹介する生産履歴とは別の有機圃場を撮影した写真を使用しています。

最初に結論|有機栽培は「無農薬」とは限らない

最初に結論を整理しておきます。

  • 有機JAS=農薬を絶対に使用しない、という制度ではありません
  • 病害虫対策は、まず栽培管理、物理的な方法、生物を利用した方法などを優先します
  • それだけでは重大な被害を防げない場合、有機JAS規格で認められた農薬を使用できる場合があります
  • 有機栽培でも肥料は使います。ただし、使用できる資材には基準があります
  • 今回確認した2025年の生産履歴では、農薬による防除の記録はありませんでした
  • 一方で、肥料の施用、刈払機による除草、葉面散布などは実際に行われています

つまり、

有機だから必ず農薬ゼロ

と考えるのも正確ではありませんし、反対に、

有機でも農薬が使えるなら普通の栽培と同じ

というわけでもありません。

実際にどのような栽培が行われたのかを知るには、その圃場の生産履歴を見ることが非常に分かりやすいのです。

そもそも有機JASとは?

日本で農産物に「有機」「オーガニック」と表示するためには、有機JASの基準に従って生産し、登録認証機関による認証を受ける必要があります。

有機JASは、単純に「農薬を使ったか、使っていないか」だけで判定する制度ではありません。

使用する肥料や農薬だけでなく、圃場の管理、生産工程、記録の作成なども含めて管理されます。

実際の有機JAS認証書

今回、生産履歴とあわせて、実際の有機JAS認証に関する資料も確認しました。

実際の有機JAS認証書。氏名、住所、認証番号など、個人や圃場の特定につながる情報はマスキングしています。
有機JAS認証書の別紙。圃場などを特定できる部分はマスキングしています。
有機JAS認証事項の確認に関する資料。個人を特定できる情報はマスキングしています。

有機JAS制度については、農林水産省の資料でも詳しく確認できます。

参考:農林水産省「有機食品の検査認証制度」

有機栽培では農薬を使えるの?

有機栽培について最も誤解されやすいのが農薬です。

有機JASでは、病害虫の防除について、まず栽培方法の工夫や物理的な防除、生物を利用した防除などによって対応することが基本です。

それでも重大な病害虫被害が生じる危険があり、それらの方法だけでは十分に防ぐことができない場合には、有機JAS規格で認められている農薬に限って使用できる場合があります。

そのため、

有機栽培=絶対に農薬を使用しない

ではありません。

ただし、一般的な慣行栽培と同じように、登録されている農薬を自由に選んで使用できるという意味でもありません。

有機栽培と無農薬の違いについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。

関連記事:有機栽培は無農薬ではない?! 意外と知らない無農薬と有機栽培の勘違い

実際のお茶の生産履歴を見てみる

ここからが今回の記事の本題です。

2025年に実際に作成された有機茶園の生産履歴を見てみましょう。

2025年の実際のお茶の生産履歴。生産者名、圃場所在地、住所、圃場番号などはマスキングしています。画像をクリックすると拡大できます。

生産履歴には、茶の摘採や製造だけでなく、農薬の使用、除草、施肥などについて記録する欄があります。

農薬名がたくさん書いてある?

この生産履歴を初めて見る方は、少し驚かれるかもしれません。

書類には「ディアナSC」をはじめ、殺虫剤、殺菌剤、除草剤など、多くの農薬名が並んでいます。

有機茶の生産履歴なのに、

こんなにたくさん農薬を使っているの?

と思うかもしれません。

しかし、ここに印刷されている農薬名は「実際に使用した農薬」の一覧ではありません。

農薬名、登録番号、希釈倍率、摘採前に必要な日数などが、記録用紙にあらかじめ印刷されています。

実際に農薬を使用した場合は、それぞれの欄に散布した月日、希釈倍率、散布量などを記入します。

今回の2025年の生産履歴を見ると、農薬の散布日、希釈倍率、散布量を記入する欄は空欄になっています。

つまり、少なくとも今回確認した2025年の生産履歴上では、殺虫剤・殺菌剤・除草剤を使用した記録は確認できませんでした。

もう一つの管理記録でも「防除」は空欄

同じ茶園について作成された「生産行程管理記録」も確認してみます。

2025年の生産行程管理記録。個人名、圃場所在地などをマスキングしています。画像をクリックすると拡大できます。

こちらには、

  • 施肥
  • 整枝・剪定
  • 除草
  • 摘採・製茶
  • 防除
  • 葉面散布

などが記録されています。

この資料でも、「防除」の欄には農薬を使用した記録がありません。

一方で、農薬を使っていないからといって、何も管理していないわけではありません。

除草剤を使わず、刈払機で年4回除草

有機栽培について、よく聞かれるのが、

除草剤を使わないなら、雑草はどうするの?

という疑問です。

今回の生産行程管理記録では、除草について次のように記録されています。

日付除草方法
4月10日刈払機
6月1日刈払機
8月9日刈払機
10月20日刈払機

年間4回、すべて刈払機による除草です。

除草剤を散布する代わりに、人が機械を使って草を刈っています。

有機茶園での栽培管理の様子。今回公開した生産履歴とは別の有機圃場です。

有機栽培というと「自然のまま育てる」というイメージを持つ方もいますが、実際には、農薬や除草剤などに頼らないために別の作業が必要になることがあります。

有機栽培でも肥料は使う

もう一つよくある誤解が、

有機栽培なら肥料も使わないのでは?

というものです。

有機栽培でも肥料は使います。

ただし、何でも自由に使えるわけではなく、有機JASの基準に沿った肥培管理が必要です。

今回の実際の生産行程管理記録には、2025年に次の施肥が記録されています。

施肥日肥料名施肥量(10aあたり)
2月24日ごまの極み160kg
7月2日ボカシ工房160kg
7月30日夢ゆうき200kg
9月20日ごまの大地160kg
10月6日夢ゆうき200kg

年間を通して複数回、きちんと施肥管理が行われていることが分かります。

有機=肥料を使わないのではなく、有機JASのルールに従って使用できる資材を選び、土づくりや肥培管理を行うということです。

※ここでは実際の生産記録に記載された肥料名を紹介しています。有機JASへの適合性は商品名だけではなく、資材の原材料や製造方法などを含めて確認されます。

葉面散布も行われている

生産行程管理記録の「葉面散布(その他の特記事項)」には、次の記録もあります。

  • 3月23日:えひめAI 250倍+EM液250倍 10aあたり200L
  • 7月25日:えひめAI 250倍+EM液250倍 10aあたり200L

これらは農薬の防除欄ではなく、「葉面散布(その他の特記事項)」として記録されています。

ここでは各資材の効果について評価するのではなく、実際の生産履歴にどのような管理作業が記録されているかという事実として紹介しています。

「農薬を使っていない=何もしていない」ではない

今回の2025年の生産履歴を整理すると、次のようになります。

管理内容2025年の記録
農薬による防除記録なし
除草刈払機で4回
施肥5回
葉面散布2回
整枝・剪定年間を通して実施

こうして見ると、有機栽培の実態がかなり分かりやすくなります。

少なくとも今回確認した茶園では、農薬による防除の記録はありませんでした。

しかし、草刈り、施肥、剪定、葉面散布など、人の手によるさまざまな管理が行われています。

有機栽培は「何もしない農業」ではありません。

今回農薬を使っていないから、有機茶はすべて無農薬?

ここは非常に重要です。

今回確認した2025年の生産履歴では農薬による防除の記録はありませんでした。

しかし、これをもって、

有機JASのお茶はすべて無農薬で栽培されている

と一般化することはできません。

有機JASでは、まず農薬に頼らない防除方法を行うことが基本ですが、それだけでは重大な被害を防げない場合には、規格で認められた農薬を使用できる場合があります。

したがって、「有機JAS」と「農薬不使用」は同じ意味ではありません。

その一方、今回のように実際の生産履歴を確認すれば、少なくともその年、その圃場でどのような管理が行われたのかを具体的に確認できます。

生産履歴に農薬名があっても「農薬まみれ」ではない

インターネットでは、

日本のお茶は農薬まみれ

といった情報を見ることがあります。

しかし今回の生産履歴は、こうした情報を見る際にも参考になります。

生産履歴の用紙にはたくさんの農薬名が印刷されていますが、農薬名が印刷されていることと、実際にその農薬を使ったことは全く別です。

実際に使ったかどうかを判断するには、散布日、農薬名、希釈倍率、散布量などの記録を見る必要があります。

つまり、お茶の農薬について考えるときは、

  • 使用できる農薬の一覧
  • 実際に使用した農薬
  • 農薬の使用方法
  • 摘採までの日数
  • 残留農薬基準

などを分けて考える必要があります。

「お茶は農薬まみれ」「日本の農薬基準は海外より緩い」といった情報については、こちらの記事で詳しく解説しています。

関連記事:お茶の農薬はどうなっている?海外と比べて本当に緩い?安全性や流通、検査体制などを解説

よくある質問

有機栽培のお茶は無農薬ですか?

必ずしもそうではありません。有機JASでは農薬に頼らない防除方法を基本としますが、それだけでは重大な被害を防げない場合、有機JAS規格で認められた農薬を使用できる場合があります。

今回紹介した茶園では農薬を使っていますか?

今回確認した2025年の生産履歴と生産行程管理記録では、農薬による防除の記録は確認できませんでした。

生産履歴に農薬名がありますが、使用したのでは?

今回の書類に掲載されている多数の農薬名は、記録用紙にあらかじめ印刷されたものです。実際に使用した場合は、散布日、希釈倍率、散布量などを記入します。今回確認した2025年の記録では、その欄に記載はありません。

有機栽培でも肥料を使いますか?

使います。ただし、使用できる資材には有機JAS上の基準があります。今回の実際の生産履歴でも、年間5回の施肥が記録されています。

除草剤を使わない場合、雑草はどうしますか?

今回の茶園では、4月、6月、8月、10月の合計4回、刈払機による除草が記録されています。

まとめ|有機栽培の実態は生産履歴を見ると分かりやすい

「有機栽培」という言葉だけを聞くと、農薬も肥料も使わず、自然のまま作物を育てているイメージを持つ方もいるかもしれません。

しかし、実際の有機茶生産はもう少し現実的です。

今回確認した2025年の実際の生産履歴では、農薬による防除の記録はありませんでした。

その一方で、

  • 刈払機による年4回の除草
  • 年5回の施肥
  • 年2回の葉面散布
  • 整枝・剪定

など、年間を通してさまざまな栽培管理が行われています。

有機栽培とは「何もしない栽培」ではなく、一定のルールの中で土壌、茶樹、病害虫、雑草などを管理していく栽培方法です。

また、有機JASだから必ず農薬不使用というわけでもありません。

「実際に農薬を使ったのか」「どのように雑草を管理したのか」「どんな肥料を使ったのか」を知りたい場合には、今回のような実際の生産履歴を見ることが一つの確かな方法です。

山麓園では、今後も一般論だけではなく、生産者から提供された実際の資料や、茶業に携わる中で得られる情報をもとに、お茶の栽培や農薬について分かりやすく紹介していきたいと思います。

参考・関連記事

この記事のライター:株式会社山麓園 代表取締役 甲斐宣史
この記事は、日本茶・健康茶の製造販売を行う株式会社山麓園が、茶葉の仕入れ・製造・販売経験をもとに解説しています。お茶の魅力、健康効果などについて情報を発信。楽天やヤフーショッピングの店長としても活躍中。食前にサラダを山盛り、高温調理の食品は避け、米は玄米と決めていて健康オタクでもあります。

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