弊社もお客様から、農薬のお問合せを受けることがしばしばあります。消費者である多くのお客様が、農薬が猛毒であるという認識を持っていて、オーガニックや無農薬でない食品を敬遠されているというのも実情です。
農薬は、作物を病害虫や雑草から守るために使われ、農家さんの生産性を飛躍的に向上させる重要なツールですが、その安全性についてはしばしば議論の的となります。一方で、多くの方が、外食されたり、添加物の入った加工食品や飲料を安心して食されています。農薬は危険で、添加物は安全というのが、常識と考えられる人が多数のようですが、実際、科学的にはどうなのでしょう?
今回は、農薬とカロリーゼロの飲料に含まれる人工甘味料の毒性を比較し、その結果をもとに農薬のリスクについて考えてみましょう。
毒性を評価する際の指標として「半数致死量(LD50)」があります。これは、ある物質を投与したときに、その物質が50%の被験者(通常は実験動物)に致死的な影響を与える量を示します。通常、mg/kgという単位で表され、数値が低いほど毒性が高いことを意味します。
例えば、食塩(塩化ナトリウム)のLD50は約3,000 mg/kgです。これを体重50kgの大人に当てはめると、3,000 mg/kg × 50 kg = 150,000 mg(150 g) となります。つまり、体重50kgの大人が一度に約150gの食塩を摂取すると、半数致死量に達する可能性があるということです。これは約3/4カップの食塩に相当します。
このように、LD50は物質の毒性を示す指標であり、日常的に摂取している食塩のような物質でも、過剰に摂取すれば危険であることが理解できます。同様に、農薬や食品添加物も過剰摂取すれば毒性が現れる可能性がありますが、通常の使用量では安全性が十分に確保されています。
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カロリーゼロのコーラには、人工甘味料としてアスパルテーム、アセスルファムK、スクラロースが使用されています。これらのLD50はそれぞれ次のようになっています。
コーラ500mlに含まれるこれらの人工甘味料の量を仮定すると、以下のようになります。
体重50kgの大人のLD50に達するために必要な各甘味料の量は次の通りです。
それぞれの甘味料に対して、LD50に達するために必要なコーラの本数は次のようになります。
つまり、体重50kgの大人がアスパルテームによるLD50(半数致死)に達するには、約2,000本の500mlコーラを一度に飲む必要があります。アセスルファムKでは約3,450本、スクラロースでは約16,000本が必要です。これらの本数は現実的には不可能であり、日常的に飲む量ではこれらの人工甘味料による健康リスクは極めて低いことがわかります。
一方、キャベツに残留する可能性のある農薬として、一般的なグリホサートを例にとります。グリホサートのLD50は約5,600 mg/kgです。
日本の基準では、キャベツのグリホサート残留基準値は0.01 mg/kgとされています。これに基づき、1.5 kgのキャベツ1個に含まれるグリホサートの量を計算すると、わずか0.015 mgです。この量に対するLD50は約0.00268 gとなります。
次に、体重50kgの大人に対して計算すると、以下のようになります。
つまり、体重50kgの大人がグリホサートによるLD50に達するためには、キャベツ約104,478個分(280,000 mg ÷ 0.00268 mg/個)、もしくはキャベツ約156,717 kg分(104,478個 × 1.5 kg)のグリホサートを一度に摂取する必要があります。
重要なのは、ここで計算している残留農薬の量は、基準値(上限値)であるという点です。実際に市場に出回るキャベツに含まれる残留農薬の量は、通常この基準値を大幅に下回ります。したがって、実際のリスクはここで示した数字よりもさらに低く、日常的な消費量では農薬の影響を心配する必要はほとんどありません。
また、発がん性や危険な病のリスクが疑われる物質は、農薬として認可されることはありません。農薬が認可されるには、厳しい安全性の評価が行われ、その評価をクリアしたものだけが使用を許可されています。このプロセスには、発がん性や遺伝毒性などのリスクを含む長期的な健康影響の調査が含まれており、安全性が確認された物質のみが農薬として市場に出回るのです。
コーラ1本分に含まれる人工甘味料のLD50(42.6 g)と、キャベツ1個分に含まれる農薬のLD50(0.00268 g)を比較すると、コーラ1本のLD50はキャベツ約15,902個分に相当します。つまり、カロリーゼロのコーラ1本に含まれる人工甘味料の致死量は、キャベツに含まれる残留農薬上限の15,902個分に匹敵するということです。
この結果から、農薬のリスクは実際の使用状況や残留量を考慮すると、非常に低いことがわかります。キャベツ1個(1.5kg)に含まれる残留農薬の量はごく微量であり、カロリーゼロの飲料に含まれる人工甘味料の致死量と比べると、桁違いに低いリスクです。
私たちが日常的に摂取する食品や飲料に含まれる物質は、厳しい規制のもとで安全性が確保されています。農薬に対する懸念は理解できますが、実際のリスクを根拠のないイメージで判断するのではなく、冷静に評価することが重要です。今回の比較からも、農薬のリスクは極めて低いことが理解できたでしょうか?。安心してバランスの取れた食生活を続けていきましょう。
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農薬や食品添加物に対して「農薬は毒であり、添加物は食品である」という固定観念を持つ方も少なくありません。しかし、実際にはその境界は曖昧であり、科学的な視点から理解することが重要です。
前述の人工甘味料であるスクラロースは、もともと農薬として開発されました。しかし、開発途中でその甘味が非常に強いことが発見され、結果的に食品添加物として利用されることになったのです。この例からもわかるように、農薬と食品添加物の区別は必ずしも明確ではありません。ある物質がどのように利用されるかは、開発者がその特性をどのように評価するかに依存しています。
一部の人工甘味料は、WHOによって発がん性の可能性が指摘されていますが、これは非常に高い摂取量や特定の条件下でのリスク評価に基づいています。興味深いことに、砂糖やぶどう糖果糖液糖は、これらの人工甘味料よりも危険な食品としてランク付けされる場合もあります。これは、糖尿病や肥満、心疾患などのリスクが関連しているためです。したがって、リスクの評価は単に「自然 vs. 人工」という区別だけではなく、その物質がどのように消費され、健康にどのような影響を与えるかに基づいて行われるべきです。
農薬や添加物はどちらも化学物質です。そして、重要なのは「化学物質」という言葉自体が中立的であるということです。天然の成分もすべて化学物質です。例えば、毒性を持つ植物やキノコは天然ですが、摂取すると命に関わることがあります。反対に、人工的に合成された物質でも、安全に使用されるように設計されたものも多く存在します。
科学的には、「天然だから安全」や「人工だから危険」という断定はできません。天然の成分は、人間や他の生物が長い歴史の中で経験してきたため、比較的に安全である可能性が高いと考えられますが、これはあくまで傾向に過ぎません。農薬や食品添加物が市場に出る前には厳しい安全性の評価が行われており、その評価をクリアしたものだけが使用されているという事実を忘れてはなりません。
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