先日、茶業を営むSさんから、お茶の旨味についてのご質問をいただきました。Sさんは、お茶の旨味が窒素肥料の使用によって強まることに対して疑問を持ち、特に化学肥料が茶葉の味に人工的な影響を与えることにモヤモヤした感覚が残るとおっしゃっていました。その一方で、日本の食文化における旨味の重要性や、化学肥料を使わずにお茶を育てることについても関心を寄せていらっしゃいます。今回は、この問い合わせにお答えしながら、お茶の旨味に関する私たちの考え方を紹介したいと思います。
お茶の旨味の成分は、主にアミノ酸から成り立っています。このアミノ酸を生成するために必要なものが「窒素」です。窒素はお茶の木にとって、筋肉を作るためのタンパク質のようなものであり、成長や旨味の向上に重要な役割を果たします。
現代農業では、窒素肥料として化学肥料がよく使用されますが、これが必ずしも悪いものではありません。適切な量であれば、化学肥料を使用しても環境や健康に悪影響を与えることはありません。大切なのは、自然と調和した形で適切に管理することです。
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日本の食文化は、「出汁(だし)」に象徴されるように、旨味を大切にする文化です。お茶の旨味もまた、その延長線上にあります。「かぶせ茶」や「玉露」「抹茶」など、日本の茶産業が誇る技術は、旨味を引き出すために長年かけて発展してきたものです。これらの技術は、世界でも高く評価されています。
お茶の旨味は、果物でいうところの「甘み」に似た存在です。糖度の高い果実を好む人が多いように、茶に甘みや旨味を求める消費者も依然として主流であると言えます。お茶の旨味を引き出すために培われてきた先人たちの技術を全否定することはできませんし、それが「主流派」でなくなることもないでしょう。
一方で、有機栽培や自然農法も重要な選択肢です。私たちも、「環境と調和したお茶作り」を目指し、できるだけ自然に近い形で農業を行っています。肥料や農薬を減らし、その土地が持つ本来の風味を引き出す「引き算のお茶作り」は、今後ますます重要になっていくと考えています。
ただし、自然農法については注意が必要です。科学的・統計的な根拠に基づいて「健康に良い」とされているわけではなく、実際には健康効果があるわけではありません。しかし、自然農法は環境保全には大きく役立っています。まるで良い雰囲気のレストランが料理だけでなく、その場のムードやストーリー性に価値があるように、「自然農法」もまた、手間や苦労をかけて作り上げたストーリー性や高級感が、マーケティング的な価値を生み出しているのです。
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お茶の旨味に対する考え方は、多様です。私たちは、消費者の好みに応じたお茶作りをすることが重要だと考えています。窒素肥料を使った旨味の強いお茶が好きな方もいれば、自然農法によるシンプルな味わいを求める方もいます。そのどちらにも対応できるよう、私たちは技術と知識を磨き続けています。
中には、窒素肥料(化学肥料)や農薬を悪しきものと否定する方もいるでしょう。しかし、もしこれらが全て排除されれば、確実に食糧不足に見舞われ、多くの人々が食べるものがなくなるという現実が待っています。一方で、環境汚染についても考慮しなければなりません。私たち茶業者としては、消費者に正しい知識を発信し、それぞれの価値観に基づいて選択肢を提供しながら、バランスの取れたアプローチを目指していくことが肝要だと考えています。
日本の茶文化と食文化の素晴らしさを尊重しつつ、これからも持続可能で、環境に優しいお茶作りを目指していきます。お茶の未来について一緒に考えていきましょう。
お茶の魅力、健康効果などについて情報を発信。楽天やヤフーショッピングの店長としても活躍中。食前にサラダを山盛り、高温調理の食品は避け、米は玄米と決めていて健康オタクでもあります。 |